不動産を相続した時、何をどうすればいいのでしょうか。本連載では不動産相続の専門家・ともりまゆみ氏が、失敗事例をもとに相続のポイントを解説していきます。
● 実子ともめる前に養子縁組の解消を ●
財産は男子が受け継ぐことを最良と考え、孫や親族の男子と養子縁組をおこなう話は沖縄では特に珍しい話ではありません。しかし誰を養子にするかその人柄などをしっかり見極めないと、財産の相続どころか家族がみんなが不幸になることもあります。(文・ともり まゆみ)
概要と経緯
相談者は80代男性。一代で財を成してアパートなどを複数所有。娘が2人いるが、できれば男系の子孫に財産を相続させたいと思い、次女の次男(相談者の孫、30代)に相談したところ、養子になることを快諾。トートーメーも含む財産を相続させる目的で養子縁組を行った。
【イメージ図】
どうなった?
養子となった孫は養子縁組後に仕事を辞めた。相談者は孫の生活費も負担していたが、体調を崩し通院が必要になった。孫は通院の手助けどころか顔を出すこともなかった。この養子縁組は失敗だと思った相談者が養子縁組の解消を申し出たが、養子となった孫に拒否されてしまった。
今回のポイント
・普通養子縁組により養子は実子と同じく財産を相続する権利が得られる
・養子縁組は双方の合意があれば役所に書類の届け出のみで手続きが完了
・「養子離縁届」も双方の合意のもと、提出することで養子縁組を解消することができる
養子も法定相続人となる
長男がすべての財産を相続するという考え方を「家督相続」といいます。家督相続は旧民法で定められたもので、1947年に廃止。
しかし、沖縄県内においては「長男または男系の子孫にトートーメーなどを含む財産を相続することがいい!」という考え方がいまだ根強くあります。子がいない、または男の子が生まれなかった家族は近い親族の男性を養子にして、トートーメーなどを含む財産を相続させたなんて話を聞いたことがある方もいらっしゃるでしょう。
このように財産相続を目的として養子を迎えることを「普通養子縁組」といい、双方の合意があれば、役所に書類の提出だけで手続きを終えることができます。普通養子縁組によって養子は実子と同じく法定相続人となり、財産相続の権利を得ることができます。
法定相続割合に応じ請求可能
今回の相談者は男系の子孫にトートーメーを含む財産を相続させたいと考え、孫(次女の次男)と養子縁組しました。相談者は仕事を辞めた孫の生活費も負担していた一方で、孫は通院が必要な相談者をサポートせず、期待を裏切られる結果となってしまいました。このままの状態で相続が発生すると、養子には実子と同じく財産を相続する権利があるため、遺産分割で実子らともめる可能性があります。また、遺言書などで実子らに全て相続させる内容を書いたとしても、孫にも遺留分の請求が認められるため、財産の6分の1(法定相続割合である3分の1の半分)は請求ができます。
養子に相続させないような対策として、ほかの相続人に生前贈与する方法もありますが、税金面で負担が大きくなることも。なるべく早めに養子縁組の解消に着手することをオススメします。解消には双方の合意のもと、「養子離縁届」の作成が必要です。
用語説明 「養子離縁届」
双方合意のもと、養子離縁届を役所に提出することで養子縁組は解消される。合意が得られない場合は家庭裁判所へ調停または裁判の申し立て、離縁の判決などが必要となる。養子縁組が解消となっても養子でいる間に贈与した財産などの返還を求めることはできない。
[執筆者プロフィル]
ともりまゆみ/(株)エレファントライフ・ともりまゆみ事務所代表。相続に特化した不動産専門ファイナンシャルプランナーとして各士業と連携し、もめない相続のためのカウンセリングを行う。
ともりまゆみ事務所
https://tomomayu.com/
電話=098・988・8247
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