不動産を相続した時、何をどうすればいいのでしょうか。本連載では不動産相続の専門家・ともりまゆみ氏が、失敗事例をもとに相続のポイントを解説していきます。

● 相続の意思表示 口頭のみは災いの元 ●
 「相続で悲しむ方をひとりでも減らしたい!」と考えて、実際の失敗事例を紹介してきた本コラムも今回で最終回となりました。読者の皆さまに少しでもお役に立てたのなら本望です。お読みいただきありがとうございました。(文・ともり まゆみ)
概要と経緯
 相談者は長女。母は30年前に亡くなった妹(配偶者なし子なし)から土地(以下、「本土地」)を相続し登記も行った。しかし、15年ほど前に次男が「叔母は生前、自分に本土地をあげると言っていた」と主張し、本土地を占有。貸し駐車場として活用し運営収益のすべてを独占した。
【イメージ図】

 

どうなった?
 収入源を失った母は生活費や税金の支払いなどに困ってしまったが、次男は本土地の固定資産税を支払うことも収益を分けることもしなかった。見かねた長女は母と一緒となり、次男を相手に裁判を起こした。「母に本土地の収益を渡してほしい」と要求したが、次男は本土地の所有権を取得するための裁判を起こし、逆に母を訴えた。
今回のポイント
・相続が「争族」に発展し家族の不幸の種にならないよう、専門家の力を借りよう
・配偶者や子がいない場合は兄弟、姉妹が法定相続人となる
・法定相続人以外への相続は養子縁組や遺言書で指定することができる
・相続について口約束では法的に有効なものとならない
遺言書などで相続内容を明記
 適切な対策がなされていない相続は家族間の愛情や信頼関係を損なう原因となります。相続が“争族(争う家族)”と言われるゆえんはここにあります。

 今回、相談者の母が叔母(妹)から法定相続人として相続した土地(以下、本土地)がコラムの中心。本来であれば母の一存で活用し収益が得られるはずでしたが、「次男が自分のものだ!」と本土地を占有。生活に困った母は次男を訴えましたが、次男は本土地の所有権を取得しようと、叔母の生前の話をもとに逆に母を訴えました。
 今となっては叔母が甥(おい)である次男に本土地を相続させると話していたかどうか、真実なのかは分かりません。ですが、配偶者や子がいない叔母が甥である次男に財産を相続させるという流れは、男子が財産を継ぐことを良しとする「家制度」が根強く残る沖縄では不自然ではないと推測できます。
 叔母が甥(次男)に本土地を本当に相続させたいと考えていたのであれば、法的に有効な養子縁組や相続内容を遺言書で明記するべきでした。適切な相続対策がなされていなかったために、母と次男が裁判で争うという悲劇が生まれました。
財産を守る対策は十人十色
 今回の相談者と同じような事例が親子間でもあります。子が3人いる父はそれぞれにいい顔をしたいがために「あの土地はお前にあげるから」とだけ口頭で伝え、遺言書などは準備せず相続が発生。子は土地を相続する権利が自分にあるとそれぞれ主張して、争いが始まりました。このような軽はずみな発言が原因となり、もめた相続事例は皆さんも見聞きしたことがあるでしょう。
 ご先祖さまから受け継ぎ、守り育てた財産を「幸せの種」にするのか、「争族の種」にするのか、それはあなたにかかっています。

 どのような相続対策が必要なのかは人それぞれ。まずはひとりで悩まず専門家の力を借りましょう。相続で不幸になる人が1人でも減ることを願い、本コラムを終わりとします。
用語説明 「相続対策」
 相続で本当に必要なのは「税」対策よりも家族がもめないための対策。ご自身の財産内容や分け方、相続人の状況などを踏まえ、専門家の力を借りながら遺言書や家族信託、生前贈与といった法的に有効な各種制度を活用しましょう。それが家族を「争族」から守るための相続対策です。
[執筆者プロフィル]

 

 ともりまゆみ/(株)エレファントライフ・ともりまゆみ事務所代表。相続に特化した不動産専門ファイナンシャルプランナーとして各士業と連携し、もめない相続のためのカウンセリングを行う。
ともりまゆみ事務所
https://tomomayu.com/
電話=098・988・8247
※当連載は今回で終了します。ご愛読ありがとうございました。
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