政府は2024年、武力攻撃予測事態を想定し、沖縄県内の離島からの住民避難計画を策定した。米軍上陸前に、政府の決定で足手まといとなる沖縄の住民たちを県外へ疎開させた80年前の光景と重なる。
政府は昨年6月、台湾有事などを念頭に先島地域(宮古、八重山)の住民約12万人を九州各県と山口県に避難させる計画を示した。これまで国、県、先島5市町村などが参加する図上訓練を2回実施。2026年度に初めての実動訓練を含む図上・実動訓練を行う予定だ。
計画では、航空機や船舶を最大限活用することで1日約2万人の輸送力を確保し、6日程度で避難完了を見込む。宿泊施設や公営住宅など、比較的早い段階で受け入れ可能となる施設は九州・山口各県全体で約36万人分と説明している。
沖縄戦でも1944年、南西諸島防衛のため、第32軍が配備され、学童と老幼婦女の疎開を実施。九州へ8万人、台湾へ2万人、計10万人を疎開させる計画だった。戦火から住民を避難させるだけでなく、戦争遂行のために地上戦での邪魔者を事前退去させる目的もあった。
現在、米軍は「遠征前方基地作戦(EABO)」に基づき、部隊を島しょ部に分散展開させ、攻撃拠点を確保する構想の具体化に取り組む。日米共同訓練では、米軍基地のない石垣島や鹿児島県奄美大島にミサイルを展開。
政府は防衛力強化の一環として、平素からの自衛隊や海上保安庁の利用を想定して整備する「特定利用空港・港湾」の指定も全国各地で進める。昨年12月には「道路」を新たに対象として追加した。
国民保護や防衛力強化の名の下に戦争につながる階段を一段一段上っているのではないか。その光景は80年前の「戦争前夜」と酷似している。
■自衛隊 機能強化の一途 「空白地」解消 琉球弧にミサイル配備
防衛省は2023年3月、石垣島に陸上自衛隊石垣駐屯地を開設し、部隊の「空白地」を解消した。だが、新たな安保関連3文書に基づき防衛力強化に向けた動きは続く。海洋進出を強める中国を念頭に、全長約1200キロに点在する南西諸島の島々にはミサイルが配備され、地域の緊張は高まりつつある。
同省は16年の与那国駐屯地を振り出しに、19年に宮古島駐屯地と奄美駐屯地(鹿児島県)を開設。石垣駐屯地で「最後のピース」が埋まった形で、大きな節目を迎えた。
地対艦ミサイル部隊がなかった沖縄本島には24年に部隊を新編。当初は沿岸監視隊のみだった与那国にも地対空ミサイル部隊の配備を計画し、九州から台湾まで弧を描くようにミサイル部隊を展開する。
防衛省は地対艦部隊の主要装備「12式地対艦誘導弾」について、敵の射程圏外から攻撃可能な「スタンド・オフ防衛能力」のある長射程ミサイルとして「改良」を進める。反撃能力(敵基地攻撃能力)へ転用でき、県内配備されれば緊張が高まりそうだ。
沖縄の日本復帰時、3施設、約166ヘクタールだった自衛隊施設は23年時点で57施設、約811ヘクタールに増えた。今後も陸自那覇駐屯地を拠点とする第15旅団の師団への格上げ、陸自沖縄訓練場内の補給拠点新設、北大東村への空自レーダー配備-などが控え、機能強化の一途をたどる。
玉城デニー知事は自衛隊の配備拡張は沖縄の基地負担の増加につながるとし、在沖米軍基地の整理縮小と併せて検討するよう政府に求めている。


