第76回沖展が浦添市のANAアリーナ浦添で開幕した。
 絵画・版画・彫刻・グラフィックデザイン・写真など12部門の計797点が展示されている。

 会場を訪れまず目に入るのは、大作の多い絵画作品だ。微細なタッチにくぎ付けとなり、大胆な抽象画に想像力をかき立てられる。
 写真コーナーでは沖縄の自然・風景・生活に込められたさまざまなメッセージが訴えかけてくる。
 各部門で熟練した技に出合うことができるほか、新たな担い手の台頭も見て取れる。
 基地問題など戦後続く社会課題を捉えた作品が多いのも沖展の特徴だ。「沖縄の今」を知ることができる展覧会でもある。
 今年は併設イベントとして「沖縄タイムスまんが大賞」の応募作品も展示された。漫画という分野で新たな表現者の誕生にも期待したい。
 比屋根清隆さんは瓦礫(がれき)と化したパレスチナ自治区ガザの街を描いた「憎しみの連鎖」で沖展賞を受賞した。
 イスラエル人とパレスチナ人が長い紛争の中で対立を深め、深い傷が憎しみの連鎖になっている歴史をテーマにした。
 過去の戦災を記憶しつつ、今起きている戦争について考えないといけないとし、「作品を見て、身近ないとしい人や平和について考えてほしい」と語る。
 戦後80年。
厳しい時代を経て「百花繚乱(りょうらん)」の今がある。作品鑑賞を通して一人一人が平和と自由の大切さを考えたい。
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 沖縄タイムスが、沖展の前身となる「第1回沖縄美術展覧会」を開催したのは戦後間もない1949年7月だった。
 ようやく水道や電気などの生活インフラ整備が始まった頃。まだ「PW(捕虜)」と書かれた軍服に身を包み、米軍払い下げのテントで暮らす人も多かった。
 新聞も週1回の発行がやっとの状況下で美術展を主催した背景には、県民の手による戦後復興への強い思いがあった。
 初回は米軍の組み立て式兵舎「コンセット」造りのタイムス社屋内で。作品は戦後の美術活動の拠点となった首里の西森(ニシムイ)の画家たちの協力を得て絵画64点を展示した。
 第3回からは米軍統治下の文化拠点となった琉米文化会館で。出品作が増えると手狭になり5回目からは春休み中の学校を借りた。
 以降この時期の開催が定着。年ごとに部門を増やし県内唯一の「総合美術展」へと発展した経緯がある。
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 想像力や多様性に満ちた芸術文化は、人間が人間らしく生きるためのよりどころのようなものだ。
 沖展は沖縄の歴史と文化を再発見する場になるだろう。
 一方、外に目を向けてみれば今も各地で戦争や紛争が繰り返されている。
 国際情勢が混(こん)沌(とん)とする中では、芸術文化の面から、戦後の歩みも振り返りたい。過去の教訓を知り、平和な社会の重要性を考える機会にしてほしい。
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