集合住宅前の地面には、黒々とした焦げ跡が生々しく残されていた。
昨年11月深夜、パレスチナ自治区・ヨルダン川西岸の都市ラマッラー郊外で放火事件が起きた。
西岸は1967年以降、イスラエルによって占領され、入植地や、そこに暮らす入植者は増加の一途をたどる。昨年7月に国際司法裁判所が、この占領政策を違法とする勧告的意見を出したが、入植者らによるパレスチナ人への暴力は後を絶たないのが現状だ。
襲撃されたアル・ビレ地区では、駐車場に止まっていた車約20台が次々と燃やされ、集合住宅の5階まで炎が迫った。私たちが現場を訪れたのは事件から1カ月以上たってからだったが、住民たちの不安は増すばかりだった。
「黒煙で赤ん坊が死んでしまうのではと心配でたまりませんでした」。そう語るのは、幼い娘2人と妻と、この住宅に暮らすゼア・カラクラさんだ。放火事件当時、下の娘はまだ生後6日だった。幸い家族は無事だったが、車は見る影もなく焼け焦げ、今はそのローンが重くのしかかる。
西岸はA~Cの三つの区域に分けられている。アル・ビレ地区は行政・治安の権限をパレスチナ自治政府が握り、建前上は一定の自治が確保されているはずのA地区だ。それでも入植者は自由にパレスチナ人を襲撃し、その加害はほとんど裁かれることはない。
「またふいに入植者たちがやってくるかもしれない、今度は家の中まで侵入してくるかもしれない-娘たちのことを考えると、安心して眠ることもできません」とゼアさんはうなだれる。
集合住宅の前の壁には、入植者たちの落書きが残されていた。
「西岸に戦争を」
その後、ガザ地区では「一時停戦」となったものの、イスラエルの兵力は西岸に振り向けられている。入植者たちもますます勢いづくだろう。日本政府を含め、それに歯止めをかけられない国際社会であっていいはずがない。
(認定NPO法人Dialogue for People副代表/フォトジャーナリスト)