2020年、一つのウイルスが巻き起こしたパンデミックに世界中が狼(ろう)狽(ばい)し、ちっぽけな私は無力さにいら立ち続けた。あの時期の生きづらさとか、誰にぶつけていいか分からない怒りは、正直思い出したくないが、未解消だったストレスが時折思い出したように目を覚まし、私を悩ませる。

 昨今、そんな地獄の体験に映画監督たちが向き合い始めている。中国でコロナ禍を過ごしたロウ・イエ監督による「未完成の映画」は、当時撮影されたスマホ映像を織り交ぜたフィクション作品。
 実映像の介入により曖昧になった虚実の境をさまよううちに、つらかったあの時へ誘い込まれ、過酷な日々の追体験を強いられるけれど、ただ、そこには人間のたくましさや芸術の力、そして愛が存在することの喜びに出合える。そろそろ、あの嫌な記憶にケリをつける時期かもしれないですね。
(桜坂劇場・下地久美子)
◇桜坂劇場で上映中
【桜坂劇場・下地久美子の映画コレ見た?】『未完成の映画』コロ...の画像はこちら >>
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