「オキナワンロックの女王」と呼ばれた歌手、マリー(Marie、旧芸名・喜屋武マリー)さん(74)が、初めての自伝「真実の叫び 沖縄ロックの女王Marie自伝」(沖縄タイムス社)を出版した。生まれ育った環境や、ステージの熱気を生き生きと伝える描写の中に、母親との確執やロックに抱いた夢、芸能人「喜屋武マリー」が作られていく過程で味わった苦悩が伝わる。
米国で暮らすマリーさん(本人提供)
マリーさんは1951年、沖縄人の母と米国人の父の間に生まれた。父親は朝鮮戦争で亡くなり、マリーさんは中城村の祖父母やコザの叔母に預けられて成長した。幼い頃からロックに親しみ、基地の街コザで過ごした中学生の時、歌手を目指す。16歳で出産後、Aサインバーで演奏するバンドのメンバーに。1960年代、ベトナム戦争の経由地沖縄で羽を伸ばす米兵の前でロックを歌い、人気を得た。復帰後は日本の芸能界でデビューした。
本は、幼い「まりこーぐゎー」が過ごした中城村での日常から始まる。
「『アメリカ放送聞いてもイミクジワカラン(意味が分からん)のに、ヌーガ(どうして)』と言いつつも掘っ立て小屋のラジオをガーガー、ピーピーといじってくれた。すると英語が聞こえ、音楽が流れてきた。『アイ! これだよーこれだよー!』とはしゃぐ私に、『まりこーはおかしな子だねー? イミクジ(意味)も分からないのに面白いわけ?』と祖父は聞いていたが、そんな祖父をそっちのけに私はサトウキビの汁をすすりながら夢中でラジオに耳を傾け、流れてくる音楽に心を奪われた」
直角に曲がった腰で豆腐を作る働き者のバーサン(曽祖母)、シンメーナービ(大鍋)に沸かしたお風呂に入れてくれた祖父、かつお節が入ったたらいを頭上に載せて売り歩いた祖母、「アメリカー」といじめられた悲しさを慰めてくれたヒージャー(ヤギ)たち、「アメリカー音楽」との出会い。
10歳ごろのマリーさん
自伝を書くきっかけになったのは、幼い頃から自分を遠ざけた母親の死だったという。
「『何しに来たねー、ヘークケェーレー!(早く帰れ!)』と大声で怒鳴る母。一人で来たという幼い娘の言葉は、母の心に届かない」
母に会いに、中城からコザに歩いていった時の場面。なぜ母が自分を育てることを拒否したのか知りたいと、記憶をたどり、叔母たちに話を聞いた。母が戦時、疎開先の県外でひもじい思いをしながら働いた軍需工場で足に大けがをし、普段は長ズボンを履いていたこと。恋人ができて結婚の約束まで至っても、子どもがいることを理由に断られるのではと心配していたこと。谷底を連想させる名前が自分を不幸にしていると、オバーに文句を言っていたこと。米国人と結婚して移住したアメリカで50歳という若さで亡くなった母の人生をたどるうちに、「母の一生を哀れに思い、生きざまが理解できるようになり、不信感が愛情に変わった」と話す。
「幸せは誰かが与えてくれるものではない。失敗してもいいから勇気を出して、あるがままの幸せを見つけてほしかった。『早く死んだ方がマシ』と口癖のように言っていた母が、哀れでならない」
「真実の叫び」というタイトルに込められているのは、「喜屋武マリー」という「商品」として作り上げられた人物像への拒絶だ。
「私には大ヒット曲というものはない。マスコミが作り上げた、基地の町の混血児がヒットしただけなのだ。そんな悩みを心の奥底に抱え、何度も『歌をやめるべきか?』と、光と闇の中を行き来した」
「バンドを継続したかったのなら、離婚はするべきではなかったのか? 私が我慢すれば全てうまく収まっていたのだろうか? そんな自分への問いかけに、何年も苦しんだ」
マリーさんはその中でも音楽への情熱を持ち続け、信頼できる人との出会いを味方に付けて生き抜いてきた。本はバンドメンバー、スタッフ、共演者、家族への感謝に満ちている。
ステージに立つマリーさん=1991年8月4日、宜野湾海浜公園
マリーさんは2010年に沖縄を離れたことをきっかけに、自伝を非公開のブログにつづり始めた。ブログを本にしようと動いたのは、孫のサイクス凜さん(26)だ。祖母が育った沖縄の歴史や文化、言葉を知らないことに〝罪悪感〟を抱いた凜さんは、「祖母の言葉を社会の財産にしなくてはならない」と考え、沖縄タイムス社に企画を持ち込んだ。オキナワンロックの女王と呼ばれた祖母について、ネットや展示では限られた記述しかなく「祖母自身の言葉を残すことが正しいことだと強く思った」という。マリーさんは、文章を添削する凜さんと何度もけんかし、「出版をやめる」と言い放ったこともあると笑う。
孫のサイクス凜さん
かつて複雑な思いを抱いた沖縄を「愛している」というマリーさん。「まだ書き足りないこともあるが、読む人が自分のことを客観的に見て、自分がちゃんと幸せに生きていける道を選んでほしいという気持ち」で本を世に送り出した。
「もう、二度と叫ばない。もう、二度と音楽を、武器とせずに。自身のアイデンティティー、『まりこーぐゎー』に戻り、風のように、自然体で生きていこう」。本は、そう結ばれている。
「真実の叫び 沖縄ロックの女王Marie自伝」(沖縄タイムス社、2025年)
「真実の叫び」は2200円(税込み)。書店(インターネット書店含む)、沖縄タイムス販売店、ネットショップ「沖縄タイムスの本」(https://shop.okinawatimes.co.jp/)で販売中。
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マリーさんは本を書くことで「自分を知り、許し、愛せるようになった。もっと良く生きられる予感がする」と話す。(出版コンテンツ部・城間有)
米国で暮らすマリーさん(本人提供)
マリーさんは1951年、沖縄人の母と米国人の父の間に生まれた。父親は朝鮮戦争で亡くなり、マリーさんは中城村の祖父母やコザの叔母に預けられて成長した。幼い頃からロックに親しみ、基地の街コザで過ごした中学生の時、歌手を目指す。16歳で出産後、Aサインバーで演奏するバンドのメンバーに。1960年代、ベトナム戦争の経由地沖縄で羽を伸ばす米兵の前でロックを歌い、人気を得た。復帰後は日本の芸能界でデビューした。
本は、幼い「まりこーぐゎー」が過ごした中城村での日常から始まる。
「『アメリカ放送聞いてもイミクジワカラン(意味が分からん)のに、ヌーガ(どうして)』と言いつつも掘っ立て小屋のラジオをガーガー、ピーピーといじってくれた。すると英語が聞こえ、音楽が流れてきた。『アイ! これだよーこれだよー!』とはしゃぐ私に、『まりこーはおかしな子だねー? イミクジ(意味)も分からないのに面白いわけ?』と祖父は聞いていたが、そんな祖父をそっちのけに私はサトウキビの汁をすすりながら夢中でラジオに耳を傾け、流れてくる音楽に心を奪われた」
直角に曲がった腰で豆腐を作る働き者のバーサン(曽祖母)、シンメーナービ(大鍋)に沸かしたお風呂に入れてくれた祖父、かつお節が入ったたらいを頭上に載せて売り歩いた祖母、「アメリカー」といじめられた悲しさを慰めてくれたヒージャー(ヤギ)たち、「アメリカー音楽」との出会い。
芸能人になる前のマリーさんの素顔が見られる。
10歳ごろのマリーさん
自伝を書くきっかけになったのは、幼い頃から自分を遠ざけた母親の死だったという。
「『何しに来たねー、ヘークケェーレー!(早く帰れ!)』と大声で怒鳴る母。一人で来たという幼い娘の言葉は、母の心に届かない」
母に会いに、中城からコザに歩いていった時の場面。なぜ母が自分を育てることを拒否したのか知りたいと、記憶をたどり、叔母たちに話を聞いた。母が戦時、疎開先の県外でひもじい思いをしながら働いた軍需工場で足に大けがをし、普段は長ズボンを履いていたこと。恋人ができて結婚の約束まで至っても、子どもがいることを理由に断られるのではと心配していたこと。谷底を連想させる名前が自分を不幸にしていると、オバーに文句を言っていたこと。米国人と結婚して移住したアメリカで50歳という若さで亡くなった母の人生をたどるうちに、「母の一生を哀れに思い、生きざまが理解できるようになり、不信感が愛情に変わった」と話す。
「幸せは誰かが与えてくれるものではない。失敗してもいいから勇気を出して、あるがままの幸せを見つけてほしかった。『早く死んだ方がマシ』と口癖のように言っていた母が、哀れでならない」
「真実の叫び」というタイトルに込められているのは、「喜屋武マリー」という「商品」として作り上げられた人物像への拒絶だ。
自分を塗り替えていくマスコミの戦略で疲弊したことや、所有物のように扱われる自分自身に対する葛藤がつづられる。
「私には大ヒット曲というものはない。マスコミが作り上げた、基地の町の混血児がヒットしただけなのだ。そんな悩みを心の奥底に抱え、何度も『歌をやめるべきか?』と、光と闇の中を行き来した」
「バンドを継続したかったのなら、離婚はするべきではなかったのか? 私が我慢すれば全てうまく収まっていたのだろうか? そんな自分への問いかけに、何年も苦しんだ」
マリーさんはその中でも音楽への情熱を持ち続け、信頼できる人との出会いを味方に付けて生き抜いてきた。本はバンドメンバー、スタッフ、共演者、家族への感謝に満ちている。
ステージに立つマリーさん=1991年8月4日、宜野湾海浜公園
マリーさんは2010年に沖縄を離れたことをきっかけに、自伝を非公開のブログにつづり始めた。ブログを本にしようと動いたのは、孫のサイクス凜さん(26)だ。祖母が育った沖縄の歴史や文化、言葉を知らないことに〝罪悪感〟を抱いた凜さんは、「祖母の言葉を社会の財産にしなくてはならない」と考え、沖縄タイムス社に企画を持ち込んだ。オキナワンロックの女王と呼ばれた祖母について、ネットや展示では限られた記述しかなく「祖母自身の言葉を残すことが正しいことだと強く思った」という。マリーさんは、文章を添削する凜さんと何度もけんかし、「出版をやめる」と言い放ったこともあると笑う。
孫のサイクス凜さん
かつて複雑な思いを抱いた沖縄を「愛している」というマリーさん。「まだ書き足りないこともあるが、読む人が自分のことを客観的に見て、自分がちゃんと幸せに生きていける道を選んでほしいという気持ち」で本を世に送り出した。
「読んだ人たちから感想をもらうと、私のこれからの生き方が変わってくるかもしれないと期待している。この先、私は何ができるか。それがすごく重要。本を出して終わり、ではなく、これから変わるんです」
「もう、二度と叫ばない。もう、二度と音楽を、武器とせずに。自身のアイデンティティー、『まりこーぐゎー』に戻り、風のように、自然体で生きていこう」。本は、そう結ばれている。
「真実の叫び 沖縄ロックの女王Marie自伝」(沖縄タイムス社、2025年)
「真実の叫び」は2200円(税込み)。書店(インターネット書店含む)、沖縄タイムス販売店、ネットショップ「沖縄タイムスの本」(https://shop.okinawatimes.co.jp/)で販売中。
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更新:2024-09-10 14:44
更新:2024-09-10 14:44
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