米軍の国内への派遣は前代未聞の強権措置だ。新たな混乱を招き、事態を悪化させる危険性がある。
デモの発端は6日、連邦政府の移民・税関捜査局(ICE)による不法移民の大量摘発だった。
トランプ大統領はデモの参加者らを「外国の敵」「侵略者」などと非難し、翌7日にはニューサム州知事の意向を無視して2千人もの州兵を派遣する大統領覚書に署名した。
さらに9日は2千人の州兵派遣の追加を決定。海兵隊派遣はそれに続くものとなる。
デモの一部が暴徒化しているのは事実だ。
しかし、州知事やロサンゼルスのバス市長は警察が対応できているとして、州兵の派遣も必要ないと主張してきた。
その頭越しに海兵隊まで派遣するとは。
デモは10日も連邦政府の建物の周りなどで行われ、州兵との間でにらみ合いが続いた。一方、参加者同士で「平和的に」と声をかけ合うなど冷静さを求める動きもある。
危惧されるのは、暴力が拡大し、市民に危険が及ぶことだ。
平和的に声を上げる人々に、警官隊がゴム弾や閃光(せんこう)弾を浴びせている。そこに軍隊まで加われば人々をパニックに陥れかねない。
海兵隊と州兵は撤退させるべきだ。
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軍がデモ参加者らを拘束するには反乱法を発動する必要がある。
トランプ氏は「反乱が発生した場合は、私は間違いなく発動させる」と述べた。
州兵の派遣についても法が定める「反乱」や「反乱の恐れがあった場合」と見なした可能性がある。
だが、デモ参加者らは武装しておらず「反乱」と見なすには無理がある。
そもそも州知事の同意なく州兵や軍を派遣すること自体あってはならない。
カリフォルニア州は民主党の牙城とされ、移民に寛容な政策をとる。
移民取り締まりを強化するトランプ氏は今回、ニューサム氏を「無能」呼ばわりし、取り締まりを妨害すれば同氏を逮捕しても構わないと威嚇した。
デモに乗じた兵士の大量派遣は、政権に異を唱える者への「脅し」とも読み取れる。
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周りを「イエスマン」で固める中、トランプ氏の横暴さに拍車が掛かっている。
標的となったハーバード大学は、研究助成金の凍結や留学生の受け入れ資格の停止などの措置を受けた。
自身の誕生日に当たる14日には大規模な軍事パレードを開催するという。「抗議活動を行う人がいた場合には非常に強力な力で対処する」と言い放った。
まるで「独裁者」の振る舞いだ。座視すれば民主主義は危機に陥る。