[沖縄タイムス ピースミーティング2025 私と戦後80年=平和を考える4DAYS]
 あの年も、月桃の花が、でいごの花がこの青い空の下で咲いていたー。戦後80年の慰霊の日を前に、22日午後2時から、那覇市久茂地のタイムスビル3階タイムスホールで「歌で綴(つづ)る80年 海勢頭豊×でいご娘コンサート」が開催される。
ピースミーティング2025~私と戦後80年=平和を考える4DAYS(主催・沖縄タイムス社)の一環。出演者は「沖縄」への思いを込め「心に残る歌を届けたい」と静かに語る。世代を超えて、80年という時を音楽とともに体感し、平和を考える。出演者のインタビューやコンサート内容を紹介する。
立ち向かう希望を歌に でいご娘 沖縄の歩み映す「艦砲ぬ喰ぇー残さー」
 形見のように残してくれた父の曲ー。その思いを「ひしひしと感じながら」歌う。悲しい歌ではなく「希望の歌」。民謡グループ「でいご娘」が亡き父の平和への思いを抱き、ステージに立つ。

(写真右から)長女・島袋艶子さん、四女・ひがけい子さん、三女・普久原千津子さん、次女・国場綾子さん

 代表曲「艦砲(かんぽう)ぬ喰(く)ぇー残(ぬく)さー」はレコード化されて今年で50年となった。戦争で妻子を失った故比嘉恒敏さんが作詞作曲した名曲だ。恒敏さんは三線の始祖とされるアカインコの生地・読谷村楚辺の出身。両親と長男が乗った対馬丸は米軍に撃沈された。
最初の妻と次男を大阪大空襲で失った。戦後は故郷へ戻り再婚。7人の子宝に恵まれ幸せを感じるが、この平和を再び戦争で壊されないように、との思いを込めて作られた。「鉄の暴風」を生き抜いた人たちを「艦砲射撃の食べ残し」と表現している。4姉妹の歌三線が聴く人の心を震わせる。
 三女の普久原千津子さんは「自分たちの人生も歌と共にここまできた。この歌を残してくれた父にも感謝」とかみしめる。「若い頃はテンポが軽快で深く聞くことはなかった。歳を取るにつれて歌詞の意味を理解できて、父の気持ちをひしひしと感じる」と語った。
 四女のひがけい子さんは「戦争の暗い歌ではなく、希望をつなぐための歌。世界ではまだ紛争が絶えないが皆で平和の尊さを感じることができれば」と微笑む。「艦砲ぬ~」のほか、「南国育ち~銭節」「懐かしき故郷」などを披露する予定だ。

 次女の国場綾子さんは「父の曲が歌い継がれている喜びを持ちながら、これからもずっと平和であるようにとの思いを込めて参加する」と話した。
 でいご娘のリーダーであり長女の島袋艶子さんは「父の死後に歌詞を解読すると、そこには家族愛や、やっと幸せになれたのにまた戦争が来るのかという恐怖が込められている」と振り返る。歌を通して、観客や若い世代に伝えたい。「父の思いを託せたらと思います」

「艦砲ぬ喰ぇー残さー」 作詞・作曲/比嘉恒敏 

でいご娘プロフィール
 読谷村出身の4姉妹による民謡グループ。幼い頃より父親の指導の下、郷土芸能に携わり舞台活動を始める。1975年、父親の遺作となる「艦砲ぬ喰ぇー残さー」のレコーディングを機に音楽プロデューサー普久原恒勇に師事、「南国育ち」「しんかぬ達」など「民踊曲」を多数発表。80年、民謡大賞を受賞。「豊年音頭」はカチャーシー曲の定番となり、現在も多くのアーティストにカバーされ、ロングヒットとなっている。
心しみる情景で伝える 海勢頭豊さん 慰霊の月 歌い継がれる「月桃」
 「沖縄の情景を歌うことで、伝わればいい。沖縄戦も、戦後のことも」。音楽家・海勢頭豊さん(81)=西原町=は、自身の音楽表現について答えた。タイムスホールでの演奏を前に「戦後の沖縄を語りながら、しっかり歌いたい」と見据える。

 代表作「月桃(げっとう)」。本土復帰から10年となる1982年6月に、琉球放送の番組で詞と曲を制作した。沖縄戦で一家全滅となった糸満市の屋敷跡の月桃が目に入り「月桃ゆれて 花咲けば 夏のたよりは南風 緑は萌えるうりずんの ふるさとの夏」(1番)という歌詞とメロディーが浮かんできた。歌詞には戦争を直接表現する言葉はない。

バイオリンの海勢頭愛さん(左)、ボーカルの島田路沙さん(右)、海勢頭豊さん(中央)

 月桃は、モチを包んで蒸すための葉などに利用され、沖縄の各家庭で重宝された。開花の季節は4月から盛夏。ちょうど沖縄戦のあった時期と重なる。「月桃の花も同じように、戦中・戦後・復帰、そして広大な基地をみつめてきた」。沖縄戦を描いた映画「GAMA-月桃の花」のテーマ曲にもなった。思わず口ずさみたくなるような旋律は親しみがあり、慰霊の月には県内の小学校などで歌い継がれている。
 コンサートは、娘でバイオリン奏者の海勢頭愛さん、ボーカルの島田路沙さんと「海勢頭豊バンド」の編成で臨む。コザ騒動の記憶を基にした「コザキチロック」など、沖縄戦後史を踏まえた歌など7~8曲を歌う予定だ。
52年4月28日の「屈辱の日」をテーマにした「さとうきびの花」も選曲した。「さとうきびの花は天に向かってまっすぐ清らかに咲く。これに負けないように沖縄の心も清らかになりなさい」との思いを込める。
 タイムスホールで19日から上映される映画は特に若い人に観てもらいたい。「島々に米軍基地を誘致するような状況を打破するためにも、沖縄戦の実態について映画を通じて、世代を超えて見て、体感してほしい」。柔和な表情の奥に非戦への強い決意がある。

「月桃」 詞・曲/海勢頭豊

海勢頭豊プロフィール
 うみせど・ゆたか 1943年生まれ、西原町在住。沖縄戦の実相を伝える映画として戦後50年の95年に制作された「GAMA-月桃の花」。製作責任者兼音楽監督を務め、制作資金集めに奔走した。作曲家として映画音楽、オペラ、バレエ、合唱曲などを作曲する傍ら、各地で精力的に平和コンサートを開催。ジュゴン保護キャンペーンセンター代表。
19~22日 映画「GAMA月桃の花」上映
 海勢頭豊さんが製作・音楽を担当した映画「GAMA月桃の花」を19日から22日の間、タイムスホールで上映する。
戦没者調査をかたくなに拒むおばぁが抱えた「語るに語れない過去」をたどる戦争の悲惨さに加え、戦後も続く葛藤や苦しみを描いた。
 料金は高校生以下無料、大人千円。
 上映は19日午後2時、午後6時、20日午前10時、午後2時、午後6時、21日午前10時、午後6時、22日午後4時半の全8回。問い合わせは沖縄タイムス社事業局文化事業部、電話098(860)3588(平日10~18時)まで。詳細は特設サイトで。URLはhttps://okinawatimes.jp/news/49453410/

映画の1シーン

21日 次世代が企画 トークイベント
 沖縄戦の継承をテーマにしたトークイベント「戦後から続く時間を言葉にするために わたしが向き合う沖縄戦」21日(土)午後2時から、那覇市久茂地のタイムスホールで開かれる。「裸足で逃げる」の著者で琉球大学教授の上間陽子さん、漫画家の大白小蟹さん、「月ぬ走いや、馬ぬ走い」で全国的な文学賞を受賞した小説家の豊永浩平さんが登壇。西由良さんが司会を務める。「ピースミーティング2025」の一環。1990年代生まれによるコラムを投稿サイト「note」で展開する「あなたの沖縄 コラムプロジェクト」が企画する。参加費1500円。申し込みはQRコードから。


わたしが向き合う沖縄戦

21・22日 ブックフェアも開催
 タイムスビル1階エントランスでは21、22の両日、午前10時から午後6時まで、県内書店が集う「私へ続く時間80年と出会うブックフェア」も開催する。入場は無料。問い合わせは沖縄タイムス社事業局文化事業部、電話098(860)3588。
音とことばで分かち合う 6月19日から4日間 タイムスビルで...の画像はこちら >>
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「月桃」 詞・曲/海勢頭豊">
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