優しさ故にうそをやめられない男。誰も傷つけたくない男の優しさが、彼を愛する女性たちを少しずつ傷つける。

 小鳥がさえずるように、うそを重ねる紳士な伊達(だて)男を演じるのは、今年生誕100年を迎えた名優、故マルチェロ・マストロヤンニ。戦争によって引き裂かれた男女の愛を描いた映画「ひまわり」で、見目麗しいソフィア・ローレンを妻にしたままロシア戦線から戻らず、何年も待たせたあの伊達男を演じた彼だ。
 よく考えると「ひまわり」ではほとんど描かれなかった、待たせたマストロヤンニ側の心持ちが「黒い瞳」では描かれている気がする。
 「あなたなしでは生きられない」。歯の浮くようなクサイ台詞(せりふ)を軽やかに、多分何度でも誰にでも言えそうで、それでいて許される唯一無二の存在。だから女性たちは彼を愛し、待ちわび、そして離れていく。
(桜坂劇場・下地久美子)
◇桜坂劇場で上映中
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