沖縄タイムス本社ビルの1階に張り出された「平和の礎」刻銘者の掲載紙面=6月21日、那覇市久茂地
6月10日から連日、沖縄タイムスで掲載した平和の礎の刻銘特集が22日に終わり、全52ページが出そろった。沖縄戦で戸籍が焼かれ、調査の基礎資料がない中で、1990年代に県内1107人の調査員が地域住民や遺族に聞き取って書き起こした犠牲者名簿をもとに刻まれた礎の氏名。戦後80年、礎の建立30年となる今改めて、新聞にそれを印字するには、予想を超える困難があった。プロジェクトの舞台裏を紹介する。(デジタル編集部・篠原知恵)
■たとえ行けなくなっても
特集に込めた思いを語る新垣綾子と仲宗根誠。2人とも礎に親族が刻銘されている=6月17日、那覇市久茂地の沖縄タイムス社(銘苅一哲撮影)
社会部戦後80年担当デスクの新垣綾子は、2000年の入社以来、6月23日の慰霊の日に糸満市の平和の礎へと足を運び続けている。
「戦後80年がたち、高齢で礎に足を運べない遺族が増えている。遺骨が見つからず、どこで亡くなったかも分からない遺族にとって、礎に刻まれた名は心のよりどころ。地元紙として、何とかして高齢の遺族が刻銘に触れる機会を作れないかと考えた」(新垣)
平和の礎に刻まれた氏名を鉛筆でなぞる女性。手元に名前を置いておきたかったのだろうか=2024年6月23日、糸満市摩文仁・平和祈念公園(喜屋武綾菜撮影)
アイデアが浮かんだのは3月下旬。沖縄県から提供を受けた刻銘者のデータを紙面に載せて、県内各地の遺族に届けたい―。システム技術部の仲宗根誠と仲程実亮に技術面のサポートを呼びかけた。二つ返事で引き受けた仲宗根らだったが、待ち受けていたのは予想を超える壁だった。
■立ちはだかる「574文字」
さかのぼること、1993年。一般住民に主眼を置く全県的な戦没者調査が、戦後50年を前に初めて行われた。礎建立の約2年前で、刻銘者を確定させるためだ。
戸籍は焼け焦げ、調査の基礎資料はない。調査員は、生存者の固く閉じられた記憶を頼りに、一人一人の犠牲者の氏名を聞き取り、手で書き起こした。全滅し、屋号しか分からない一家。米軍の「捕虜」になり、日本兵に殺された人。誰も名前が思い出せない子。日本軍とアメリカ軍の激しい戦闘があった伊江島で調査に当たった一人は「戦後50年たってなお語れない人もいた」と2015年当時の取材に語っている。
調査が難航した上、手書きで書き起こしたという背景から、礎の刻銘には、パソコンに変換できない旧漢字や、実在するか分からない漢字が多く含まれていた。
「実際に作業を始めて目にしたことがない漢字の多さに驚いた。新聞製作のシステムにそのまま落とし込めば文字化けする。一文字ずつ、イラストレーターというソフトを使って手作業で漢字を作り、とても時間がかかった」
仲宗根らが「手作り」した漢字の一部
手作業で作り上げた「漢字」は574文字に上る。仲宗根によると、1文字おおむね5分の作業時間だったといい、単純計算で48時間ほどかかったことになる。
■たった一人の「カミちゃん」
特集の試作は30回を超え、実際に新聞紙面の形にして試し刷りも2回した。社会部のデスク4人と仲宗根、仲程が交代で平和の礎に10回近く足を運び、試作の紙面と照らし合わせて、抜けや間違いがないかを念入りに確認し合った。
戦争の犠牲者を一人も漏らさずに刻みたいという当時の沖縄県の決意の表れか、同じ地域に同じ名前が2度続き、二重刻銘の可能性があるケースも目立った。中には「河井」「河合」で姓が一文字違う一方、名前の漢字の珍しさから同一人物の可能性があるものも。迷ったが、そのまま掲載することにした。
「〇〇の長女」など、名前が記されていない刻銘も少なくない。一家全滅で名前が分からなかったり、名前を付ける前に命を落とした子とみられ、住民を巻き込んだ地上戦の苛烈さを物語る。
社会部デスクの高崎園子は「一人だけ、『カミちゃん』という、ちゃん付けの刻銘を見つけた。遺族の思いが込められていたのかな。刻銘を一つ一つ確認しながら、この子はどんな子だったのかな、生きていたらどんなおばあちゃんになっていたんだろう、そんなことを想像した」と話す。
■怒りの電話「間違いです」
「間違っている」。
調べると、礎には正しい表記で刻まれていたものの、元の沖縄県の提供データには間違った表記で記載されていたことが分かった。紙面を刷り直し、男性に届けて謝罪した。自身も、おじや曽祖父母ら親族が刻銘されている新垣は「怒りの強さが、遺族にとっての礎の存在の重さを表していると改めて実感した」と話す。
点検作業の指示を出す粟国雄一郎(左)。現地と紙面で、24万2546人分の氏名を3回確認した=17日、那覇市久茂地の沖縄タイムス社(銘苅一哲撮影)
10日以降、社会部には問い合わせの電話が増え「まるでコールセンターのようになっている」(新垣)という。「この地域はいつ載るのか」から「見つからないので一緒に探してほしい」というものまで。特集をきっかけに、親族の沖縄戦体験を聞きに行ったという若者や、全ての掲載紙面を送ってほしいという県外の人もいた。
問い合わせは1日に20~30件に上った。特集を壁一面に広げて、沖縄戦で失われた命の数を子どもたちに伝える学校現場の取り組みも始まったという。粟国は「掲載から日を重ねるにつれ、購読者以外に反響がじわじわと広がっている手応えがある」と語る。
一連のプロジェクトは、これまで沖縄戦を取材してきた記者たちが、改めて戦争が奪った幾多の命に向き合う作業の連続だった。社会部デスクの大野亨恭は言う。
「どんなにか無念だったろう。礎に刻まれたこの人たちがもし生きていたら、と何度も考えた。今を生きる立場からすると、そんな沖縄の社会を見てみたかった」沖縄タイムス本社ビルの1階に張り出された「平和の礎」刻銘者の掲載紙面=6月21日、那覇市久茂地">
トピックス
社会ニュースランキング
-
1
【速報】赤坂の個室サウナ店で2人が倒れ意識不明の重体 原因を捜査 警視庁
-
2
2人死亡ひき逃げ容疑者の実名を警視庁が公表…職業不祥の横尾優祐容疑者(37)を危険運転致死などの疑いで再逮捕 盗んだ車で暴走 東京・足立区
-
3
トンネル内で大型バイクが乗用車に追突 バイクを運転していた男性(23)が死亡 神奈川・逗子市
-
4
【速報】土砂が崩れ作業員生き埋めに 三重・鈴鹿市
-
5
焼き肉店のホルモンやユッケが原因か?会社員男女が食中毒に「カンピロバクターが原因」17人中6人に下痢・発熱の症状 山口
-
6
1泊8000円以上の宿泊につき“3000円”を割引 福島県が「また来て。」割を実施へ
-
7
「平屋建てから出火」と通報 激しい炎と煙が上がる 福岡市早良区で火事 消防が出動し消火活動中
-
8
伊東市長選落選の田久保真紀氏、今後は「まったくの未定」…発言めぐる一部報道を否定 今後の取材も拒否
-
9
結婚式場の解体現場で土砂崩れ 64歳男性作業員が巻き込まれ死亡 コンクリート杭撤去の作業中 三重・鈴鹿市
-
10
【速報】「叫び声が聞こえる」神奈川・相模原市の住宅で火災 現在消火活動中 少なくとも1人死亡
-
11
波田野紘一郎さん死去(元NHKディレクター)
-
12
【速報】JR武蔵野線で人身事故 上下線で運転見合わせ
-
13
さいたま市岩槻区と日高市 死亡交通事故相次ぐ/埼玉県
-
14
ふたご座流星群 昨夜ピーク ひと晩で400個以上の流れ星を確認
-
15
東京・赤坂の個室プライベートサウナ施設で30代男女が意識不明の重体に…部屋の壁燃える火事 東京メトロ赤坂駅から300mほど
-
16
「やっぱり、あれは流星だったんだ!」 “12/14”に激写された1枚に反響【ふたご座流星群】
-
17
東京・赤坂の個室サウナで火災=客の男女死亡―警視庁
-
18
受験塾「SS義塾」が音信不通に… 塾を経営する会社の社長は「会社を乗っ取られた」と主張
-
19
「黒煙と炎が見える」高湯温泉“玉子湯”の職員寮で火事・福島
-
20
逝去した三笠宮が語っていた歴史修正主義批判! 日本軍の南京での行為を「虐殺以外の何物でもない」と

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)
![[コロンブス] キレイな状態をキープ 長時間撥水 アメダス 防水・防汚スプレー420mL](https://m.media-amazon.com/images/I/31RInZEF7ZL._SL500_.jpg)







![名探偵コナン 106 絵コンテカードセット付き特装版 ([特装版コミック])](https://m.media-amazon.com/images/I/01MKUOLsA5L._SL500_.gif)