沖縄戦による一家全滅や登記簿など資料の消失で、持ち主が分からなくなった「所有者不明土地」は今年3月末時点で97万平方メートル余りに上る。返還は資料や証言を基に判断するが、戦後80年が経過する中で全ての土地が返還される見込みは立たない。
国際通りから徒歩1分の場所にある草木が茂った所有者不明の墓地(手前)=20日、那覇市松尾
本紙の取材に対し、県が公表した県内の所有者不明土地は県と市町村の管理分を合わせて2661筆。面積は97万9844平方メートルで、沖縄セルラースタジアム那覇の野球場部分(約1万6千平方メートル)の約61個分の広さ。墓地などを管理する22市町村で約8万4492平方メートルで、それ以外の県管理が約89万5352平方メートルと全体の9割を占める。
■過去10年で返還は85筆だけ 管理費が財政を圧迫
県は所有者不明土地のパトロールや草刈りなどに加えて、住宅などで利用されている場合は家賃の徴収などを担っている。こうした管理費は2024年度の実績で2400万円に上る。那覇市は市町村の中で最も多い500筆以上を管理し、年間300万~400万円の財政負担が戦後から現在まで続いている。
過去10年間で返還が実現したのは県管理分が38筆(約2187平方メートル)で、市町村管理分は47筆(6276平方メートル)。所有者を特定できたとしても生存しているかが分からなかったり、「先祖代々の土地」として所有を申し出ても裁判手続きが必要となるなどハードルは高い。
所有者への返還が困難な土地を管理し続けることへの負担を解消するため、県はこれまでに所有者不明土地を国の責任で管理する制度の創設や財政措置を求めているが実現していない。
戦後80年の今年も「戦後処理は終わっていない」とあらためて国に提出した要請書で遺骨収集や不発弾処理とともに、所有者不明土地への対応を求めた。
■所有者判明まで賃料は「預かり」
沖縄戦に起因する所有者不明土地は戦後80年が経過する中、所有者への返還がさらに困難になっている。
戦後、沖縄を統治した米軍は土地台帳などが消失したことを受けて土地の所有権確認の作業に着手した。この際、所有の申請がないなど所有者が判明しなかった土地が「所有者不明土地」とされた。
米国民政府は1952年、墓地や聖地などを市町村、それ以外の土地を琉球政府が管理するよう布告。日本復帰以降も、現在まで県、市町村が管理している。
県は管理する1473筆のうち、552筆で所有者不明土地に居住などしている県民と賃貸借契約を交わしている。ただ、担当者が「賃料は県で預かり、真の所有者が判明した際に返納している」と説明。残りの921筆は未活用、もしくは活用が難しい土地で、県は年間約2400万円の管理費を負担している。
■賃料は不安定な財源 国による管理求める
墓地などを管理する市町村別で見ると、那覇市は500筆余りの所有者不明土地が点在する。昨年、3年ぶりに1件の返還があった。
管理する墓地に雑草が繁茂すれば周辺環境に影響を与えたり、不法投棄の温床になったりする恐れがあるため、草刈りのため年間300万~400万円の管理費が生じている。
53筆の土地は、市が借り受けて小学校や子ども園の駐車場に利用するほか、民間への賃貸、自衛隊基地としての利用で賃料や地代が入るが、担当者は「いずれ返還しなければならない可能性がある不安定な活用」と指摘。一時的な活用ではなく国による管理を求めた。
写真を拡大 県内の所有者不明土地の管理状況
■基地の跡地開発に影響 国による支援が必要
堤純一郎・琉球大学名誉教授の話
県外では墓地がお寺に所属しているため所有者は整っていることが多い。沖縄では個人所有の墓地が多いため、所有者不明の墓地が多くなる背景がある。
所有者不明土地の一般的な問題は土地が放置されることで雑草が繁茂し、虫の発生やごみの不法投棄など周辺環境が悪化する点だ。
さらに懸念されるのは米軍基地が返還された後の跡地開発への影響だ。基地内にも所有者不明の土地はある。キャンプ・キンザーや米軍普天間飛行場が返還され、区画整理をする際に、所有者が分からない土地が存在し、虫食い状態となる危険性がある。
国も対策として所有者不明土地を合理的に使用できる法改正をしているが、主体となる都道府県や市町村の手が回っていない状況がある。国による直轄管理が難しいならば、財政的な負担と同時に実際に土地を活用するための自治体の人手不足を解消するなどの支援が求められる。
堤純一郎・琉球大学名誉教授
国際通りから徒歩1分の場所にある草木が茂った所有者不明の墓地(手前)=20日、那覇市松尾">
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所有者不明の宅地などを所管する県は年間約2400万円の管理費を負担し、墓地管理が中心の市町村にも財政負担がのしかかる。(政経部・銘苅一哲)
国際通りから徒歩1分の場所にある草木が茂った所有者不明の墓地(手前)=20日、那覇市松尾
本紙の取材に対し、県が公表した県内の所有者不明土地は県と市町村の管理分を合わせて2661筆。面積は97万9844平方メートルで、沖縄セルラースタジアム那覇の野球場部分(約1万6千平方メートル)の約61個分の広さ。墓地などを管理する22市町村で約8万4492平方メートルで、それ以外の県管理が約89万5352平方メートルと全体の9割を占める。
■過去10年で返還は85筆だけ 管理費が財政を圧迫
県は所有者不明土地のパトロールや草刈りなどに加えて、住宅などで利用されている場合は家賃の徴収などを担っている。こうした管理費は2024年度の実績で2400万円に上る。那覇市は市町村の中で最も多い500筆以上を管理し、年間300万~400万円の財政負担が戦後から現在まで続いている。
過去10年間で返還が実現したのは県管理分が38筆(約2187平方メートル)で、市町村管理分は47筆(6276平方メートル)。所有者を特定できたとしても生存しているかが分からなかったり、「先祖代々の土地」として所有を申し出ても裁判手続きが必要となるなどハードルは高い。
所有者への返還が困難な土地を管理し続けることへの負担を解消するため、県はこれまでに所有者不明土地を国の責任で管理する制度の創設や財政措置を求めているが実現していない。
戦後80年の今年も「戦後処理は終わっていない」とあらためて国に提出した要請書で遺骨収集や不発弾処理とともに、所有者不明土地への対応を求めた。
■所有者判明まで賃料は「預かり」
沖縄戦に起因する所有者不明土地は戦後80年が経過する中、所有者への返還がさらに困難になっている。
戦後から管理を続ける県、市町村に財政負担がのしかかる中、民法の改正で民間への土地の貸し出しなど活用に一定の道が開けた。しかし、所有者が見つかった場合は賃料を返還しなければならないなど安定的な財源といえない。県と市町村から国の関与を求める声が上がる。
戦後、沖縄を統治した米軍は土地台帳などが消失したことを受けて土地の所有権確認の作業に着手した。この際、所有の申請がないなど所有者が判明しなかった土地が「所有者不明土地」とされた。
米国民政府は1952年、墓地や聖地などを市町村、それ以外の土地を琉球政府が管理するよう布告。日本復帰以降も、現在まで県、市町村が管理している。
県は管理する1473筆のうち、552筆で所有者不明土地に居住などしている県民と賃貸借契約を交わしている。ただ、担当者が「賃料は県で預かり、真の所有者が判明した際に返納している」と説明。残りの921筆は未活用、もしくは活用が難しい土地で、県は年間約2400万円の管理費を負担している。
■賃料は不安定な財源 国による管理求める
墓地などを管理する市町村別で見ると、那覇市は500筆余りの所有者不明土地が点在する。昨年、3年ぶりに1件の返還があった。
返還のためには裁判手続きが必要なためハードルが高く、返還は数年に1件のペースだ。
管理する墓地に雑草が繁茂すれば周辺環境に影響を与えたり、不法投棄の温床になったりする恐れがあるため、草刈りのため年間300万~400万円の管理費が生じている。
53筆の土地は、市が借り受けて小学校や子ども園の駐車場に利用するほか、民間への賃貸、自衛隊基地としての利用で賃料や地代が入るが、担当者は「いずれ返還しなければならない可能性がある不安定な活用」と指摘。一時的な活用ではなく国による管理を求めた。
写真を拡大 県内の所有者不明土地の管理状況
■基地の跡地開発に影響 国による支援が必要
堤純一郎・琉球大学名誉教授の話
県外では墓地がお寺に所属しているため所有者は整っていることが多い。沖縄では個人所有の墓地が多いため、所有者不明の墓地が多くなる背景がある。
所有者不明土地の一般的な問題は土地が放置されることで雑草が繁茂し、虫の発生やごみの不法投棄など周辺環境が悪化する点だ。
さらに懸念されるのは米軍基地が返還された後の跡地開発への影響だ。基地内にも所有者不明の土地はある。キャンプ・キンザーや米軍普天間飛行場が返還され、区画整理をする際に、所有者が分からない土地が存在し、虫食い状態となる危険性がある。
国も対策として所有者不明土地を合理的に使用できる法改正をしているが、主体となる都道府県や市町村の手が回っていない状況がある。国による直轄管理が難しいならば、財政的な負担と同時に実際に土地を活用するための自治体の人手不足を解消するなどの支援が求められる。
(都市建築環境工学)
堤純一郎・琉球大学名誉教授
国際通りから徒歩1分の場所にある草木が茂った所有者不明の墓地(手前)=20日、那覇市松尾">

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