石破首相は「沖縄の皆さまには今もなお米軍基地の集中による大きな負担を担っていただいている」としつつ、基地負担の軽減には「目に見える形で実現する、それが私自身の強い決意だ」と述べるにとどめた。
県が10日に政府へ支援を要請した戦没者の遺骨収集と不発弾処理については「着実に取り組んでいく」とした。
石破首相は追悼式に参列後、ひめゆりの塔で献花し、ひめゆり平和祈念資料館を視察する。現役の首相が公務でひめゆりの塔を訪問するのは異例で、2012年2月の野田佳彦首相以来13年ぶり。
ひめゆりの塔を巡っては、今年5月、自民党の西田昌司参院議員が展示説明について「歴史の書き換え」などと発言。県内外から批判を浴び、県議会が西田氏に謝罪と発言の撤回を求めて抗議決議した。石破首相は西田氏の発言について国会で「私は(西田氏と)認識を異にしている」と答弁した。
【石破首相のあいさつ全文】
戦後80年沖縄全戦没者追悼式が執り行われるに当たり、沖縄戦において、戦場に斃(たお)れられた御霊(みたま)、戦禍に遭われ亡くなられた御霊に、謹んで哀悼の誠を捧げます。
先の大戦において、ここ沖縄では、住民を巻き込んだ凄惨(せいさん)な地上戦が行われ、20万人もの尊い命が失われました。
ひめゆり学徒隊や鉄血勤皇隊など、希望に満ちた未来を歩むべき若者までもが、戦場に駆り立てられ、犠牲となりました。多くの父や母が、わが子の無事を願いながら、戦乱の渦の中で息を引き取られました。
平和の礎に刻まれた全ての戦没者の無念と、残された方々の悲しみを、私たちは決して忘れてはなりません。
私たちが享受している平和と繁栄は、この地で命を落とされた方々の尊い犠牲と、沖縄の歩んだ筆舌に尽くし難い苦難の歴史の上に築かれたものです。
沖縄戦から80年を迎えた今、そのことを改めて深く胸に刻みながら、静かに頭(こうべ)を垂れたいと思います。
沖縄戦では、県民の4人に1人が命を落とされました。
私は、小泉内閣で防衛庁長官として国民保護法制に携わった際、「決して、 民間人が戦に巻き込まれることがあってはならない」という強い思いの下、法整備に取り組みました。このとき念頭にあったのは、この悲惨な沖縄戦でありました。
沖縄が負われた深い傷に思いを致し、戦争の愚かさと悲惨さを改めて正面から見つめ、平和で豊かな沖縄の実現に向けて力を尽くすことは、国家の重要な責務であります。
沖縄の皆さまには、今もなお、米軍基地の集中による大きな負担を担っていただいております。沖縄の負担軽減を、目に見える形で実現する。それが私自身の強い決意であります。
本年3月、西普天間住宅地区跡地に、高度な医療・研究機能を有する健康医療拠点が誕生しました。
5月には、地元の経済界等を中心として、今後の返還予定地を活用した経済成長のグランドデザインが策定されました。
政府においては、引き続き、在日米軍施設・区域の整理・統合・縮小に取り組むとともに、沖縄の皆さまと連携し、駐留軍用地跡地の有効利用を進めてまいります。
沖縄には、万人の心を惹(ひ)く美しい自然、アジアの玄関口に位置する地理的特性、「万国津梁(しんりょう)」の地としての国際色溢(あふ)れる文化や伝統があります。
こうした魅力や優位性を生かし、観光業等の高付加価値化、先端技術を活用した医療や航空産業の拠点化など、県民の皆さまが描く将来像の実現に向けて、国家戦略として沖縄振興を進めてまいる所存です。
また、今なお続く、戦没者のご遺骨の収集、不発弾の処理等についても、着実に取り組んでまいります。
わが国は、戦後一貫して、平和国家としての歩みを進めてまいりました。戦争の惨禍を二度と繰り返さない。歳月がいかに流れても、この決然たる誓いを、世代を超えて継承し、貫くとともに、平和で心豊かに暮らせる世の中の実現に向けて取り組んでまいります。
結びに、この地に眠る御霊の安らかならんことを、そしてご遺族の方々のご平安を、心からお祈り申し上げ、 私のあいさつといたします。
令和7(2025)年6月23日 内閣総理大臣 石破茂