「いのちのとりで裁判」で受給者の勝訴が確定した。最初の提訴から11年余り。
司法を動かしたのは、生活保護制度という「最後の砦」を守ろうと立ち上がった当事者の重い訴えだ。
 2013~15年にかけて国が生活保護費を引き下げたのは「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する生活保護法に違反するかどうかが争われた2件の訴訟の上告審判決があった。最高裁第3小法廷(宇賀克也裁判長)は、減額を違法とする統一判断を示した。
 同種訴訟は29都道府県で31件起こされている。那覇地裁は請求を棄却しており、各地の地裁、高裁で判断が分かれている。
 うち今回は名古屋、大阪の2訴訟の判決だが、最高裁判断はその他の裁判にも影響を与えることになる。
 国敗訴が確定した以上、同種訴訟の全面解決と減額分の支給など確実な補償を求めたい。
 国は15年まで3年をかけて、生活保護費のうち食費や光熱費など日常生活のための「生活扶助」の基準を平均6・5%引き下げ、約670億円を削減した。
 焦点は引き下げの根拠となった物価下落を反映する「デフレ調整」の是非だった。
 第3小法廷は、デフレ調整に関し「裁量の範囲の逸脱、乱用があった」と判断。引き下げは「専門部会の審議を経ていないなど、合理性を基礎付ける専門的知見があるとは認められない」と厳しく指摘した
 客観的・合理的根拠に基づいて政策を決めるというプロセスの軽視は許されるものではない。
 国の責任は重く、その姿勢を戒める判断といえる。

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 訴訟で争われた13~15年の引き下げは、自民党の政権復帰後に実施されたものだ。
 直前12年の衆院選公約で、自民党は「生活保護費1割カット」を掲げていた。人気タレントの母親が生活保護を受けていたことが分かり、受給者への批判や偏見が強まった時期である。
 原告弁護団が「科学的根拠より政治的思惑を優先した」と話すように、政権の意向が決定を後押ししたとみられても仕方ない。  
 厚生労働省側は多くを語ろうとせず、決定過程は「ブラックボックス」と批判を浴びた。
 なぜ、このような歪んだ決定が下されたのか。第三者による検証を求めたい。
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 提訴時、千人を超えていた原告のうち、232人が既に亡くなっている。
 「孫のための100円貯金ができなくなり入学祝いも渡せなかった」「ケアハウスに入る母親に会うための交通費を削らざるを得なかった」
 原告らは我慢の日々を送りながら、暮らしを立て直すための生活保護を守ろうと闘ってきた。
 今回、最高裁は国の賠償責任は否定したが、宇賀裁判長は賠償も認めるべきとの反対意見を付けた。
 国は「最後のセーフティーネット」である生活保護の重要性を改めて肝に銘じるべきだ。
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