県が、糸満市摩文仁の県平和祈念資料館(本館)と石垣市新栄町の八重山平和祈念館(分館)の展示をリニューアルするための基本計画の素案を公表した。
 大幅な更新は本館では2000年以来、分館では1999年の開館から初めてとなる。

 老朽化した設備を改めるほか、歴史的事実の追加や沖縄戦に関する新たな調査・研究に基づく説明文の見直しなどが目的だ。
 昨年6月に監修委員会を設置し、今年1月に基本構想をまとめていた。
 県平和祈念資料館の入館者数は2023年度、約28万人。新型コロナ禍の影響から回復したとはいえ、ピーク時の6割にとどまっている。
 戦後80年がたち、戦争体験者が減少する中、展示手法の見直しが急がれる。
 1975年の旧資料館設立時の理念と「展示むすびの言葉」は継承する。戦争につながる一切の行為を否定し、「戦争を許さない」との決意を表明する。
 本館2階の常設展示室の構成やテーマも原則引き継ぐという。
 一方、琉球併合からの社会の変遷を伝える第1展示室は、沖縄の女性史・近代史研究の進展を踏まえ、内容を見直す。
 沖縄戦の実相を伝える第3展示室については、ガマの再現模型が分かりにくいとの指摘があり、説明・展示の在り方を再検討する方針だ。
 戦争を知らない世代に、限られたスペースと時間で何をどのように伝えるか。史実の継承に資する展示を求めたい。

■    ■
 本館のリニューアルを巡っては、過去に監修委員会が決めた展示内容を当時の知事ら三役の意向で一部変更しようとしたことが判明し、問題となった。
 住民に銃を向ける日本兵の模型から銃が取り除かれ、青酸カリ入りのミルクで負傷兵に自決を強要する日本兵の模型が撤去されていたのである。
 背景にあったのは、沖縄サミット開催を前にした政府への忖度(そんたく)という政治的判断だ。
 今年に入って、国会議員が沖縄戦の歴史を都合良く解釈するような発言が相次ぐなど、政治的な圧力は強まっている。
 歴史を修正しようとする動きに対し、沖縄戦の体験を記録し、語り継ぐ公的施設としての本館と分館の役割はますます重要になっている。
■    ■
 県内では今年、ひめゆり平和祈念資料館や対馬丸記念館など平和関連8施設による「沖縄・平和と人権博物館ネットワーク」が設立された。
 若者の来館が減少する中、戦争の悲惨さ、戦後の米軍統治下や、過酷な状況からの回復の歴史などの発信で連携を強化するねらいがある。
 今回のリニューアルを機に、こうした連携をさらに前に進めることが求められる。
 住民の視点にこだわって沖縄戦の実相を伝え、平和を求める心を育てる展示を貫いてほしい。
編集部おすすめ