「最強の一人芝居フェスティバル=INDEPENDENT」の沖縄公演を主催する役者の犬養憲子=5月、那覇市のアトリエ銘苅ベース

 たった一人で演技のすべてを背負う“一人芝居”。そんな“一人芝居シーン”が、沖縄にも徐々に根付き始めている。
きっかけの一つが、大阪発で全国に広がる「最強の一人芝居フェスティバル=INDEPENDENT」だ。2015年から沖縄でも定期公演を行い、沖縄県内の役者や芸人、脚本家らに一人芝居への門戸を開いてきた。新たな表現に挑戦する好機となっている。さらに、自主的に一人芝居公演を立ち上げた若手役者たちは、ストイックに自らの芝居の新境地を切り開き、成長につなげている。
今後の役者人生に新しい選択肢
 5月に那覇市のアトリエ銘苅ベースで開催された「INDEPENDENT:NHA25」には、5人の役者が参加した。満席の客席に対峙して、スポットライトを浴びるのはただ一人。しゃべり方や声色、仕草で複数の人間を演じ分けるだけでなく、さらにそれをストーリーとして感情豊かに観客へ届けるのだから、並大抵ではない努力が必要なことは容易に想像できる。
 この日は5人が舞台に立った。そのうち初めて一人芝居に挑戦したのは、秋山ひとみ(劇団O.Z.E)、仲泊伽帆(劇団ビーチロック)、安次嶺正美(Theater TEN Company)の3人だ。

初めて一人芝居に挑戦した秋山ひとみ(劇団O.Z.E)=5月、那覇市のアトリエ銘苅ベース

 秋山は今回の挑戦について「一人で舞台に立ってみることや、そこから見える景色に興味が湧いた」ときっかけを話す。練習期間は3週間。何をしている時もぶつぶつとセリフを覚える日々が続いた。
舞台上では一人だが「脚本を書いてもらったけいたりんさん(プロパン7)や、音響、照明のスタッフの方、イベントの運営の方がいるので、独りぼっちではなかった」と、仲間たちの存在に支えられた。
 「一人芝居をやってみた人じゃないと、あの緊張感は共有できない」と語り、「自分の身一つで身軽にあちこち行けるのは、一人芝居の強みだと思います」と話す。一人芝居を通して、今後の役者人生における新たな選択肢を得た。
増える一人芝居挑戦者
 INDEPENDENT沖縄公演はことしで10周年。沖縄公演の主催者であり、役者の犬養憲子(芝居屋いぬかい)は「一人芝居をやる人が増えているので、挑戦するハードルは下がってきている」と手応えを語る。最少人数で舞台に向き合うことで、「お芝居の経験値が上がり、役者自身の演技の幅も広がります」と、その“効能”にも言及した。

沖縄の一人芝居シーンについて語る役者の犬養憲子(左)とINDEPENDENTの総合プロデューサー・相内唯史氏=5月、那覇市のアトリエ銘苅ベース

 沖縄が離島県であることで、他府県の舞台芸術を気軽に鑑賞する機会が限られてしまう側面がある。INDEPENDENTの総合プロデューサー・相内唯史氏は次のように展望を語る。「沖縄だとどうしても、一人芝居の質の高い作品を観たり、ノウハウを吸収したりする機会が少なくなってしまいます。そのあたりをカバーする意味でも、沖縄での開催はしっかりと続けていきたいです」
企画から出演まで一人でこなす若手役者も

自身が脚本や出演などを手掛ける一人芝居「伊藤駿一の奇劇」に挑む役者の伊藤駿一=4月、北谷町のライブハウスMOD‘S

 そんな矢先、初めての一人芝居を主催し、上演に踏み切った若手役者がいる。浦添市出身の伊藤駿一(01ENTERTAINMENT)。現役の医学生でもある。
目標は大きく「カンヌ国際映画祭最優秀男優賞」だ。
 4月に北谷町のライブハウスMOD‘Sで開催した「伊藤駿一の奇劇」では、「奇」をテーマに、人格を使い分けながら恋敵と闘う男や、ゴキブリをペットとして愛好する男など、現実離れした人間を次々と演じた。時には大声を上げ、時には大きなアクションを交えながら、観客を一人芝居の世界に引き込んでいった。
 「本番前の重圧はかつてないものだった」と語るが、なぜこのような茨(いばら)の道を自ら選択したのか。「軸となるのは、自らの成長です」
 集団でやる芝居との一番の違いを「想像力」と語る伊藤。舞台上には一人しかいないからこそ、「自分が演じている役以外の、目に見えない相手役をいかに観客に想像してもらうかを突き詰めたかった」と話し、役者としての幅を広げた。
 他の役者にも一人芝居を「お勧めします」と言うものの、少し間を置いて「ですが、めちゃくちゃきついです」と苦笑する。初めての一人芝居で浮かび上がった課題と向き合いながら、「これからも続けていきたいです」と気を引き締め、また新たな「誰か」に憑依していく。
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沖縄で熱を帯び始めた“一人芝居”シーン 舞台に新風をもたらす表現者たち
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