戦後80年の沖縄全戦没者追悼式で、石破茂首相は、沖縄の基地問題に関し「負担軽減を目に見える形で実現する。それが私自身の強い決意だ」と述べた。

 恒久平和への誓いを新たにする追悼式で、首相として初めて基地負担軽減に触れたのは、1996年の橋本龍太郎氏だ。
 前年の95年、米兵による少女暴行事件が発生した。県民は怒り、復帰後最大の総決起大会へとつながった。沖縄の怒りは日米安保体制を根幹から揺るがし、96年4月に日米両政府は普天間飛行場の5~7年以内の全面返還で合意した。
 その2カ月後の追悼式に、橋本氏は「県民の負担軽減に内閣を挙げて全力で取り組む」とのメッセージを寄せた。以後、歴代13人の首相は全員、負担軽減に言及してきた。2012年に2度目の首相の座に就いた安倍晋三氏は「できることは全て行う」との決意を表明した。
 だが、首相たちの決意とは裏腹に、負担軽減は一向に進んでいない。1996年に2万3519ヘクタールあった沖縄の米軍専用施設面積は、2024年1月までに約5千ヘクタール縮小した。しかし全国との割合で比べると74・9%から70・3%とわずか4・6ポイント減っただけだ。
 どうすれば、基地負担を減らすことができるのか。参院選の候補者は「決意」だけでなく、具体的な道筋を示してほしい。

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 なぜ減らないのか、答えは明白だ。日米合意により、返還の多くに「県内移設」の条件が付いているためだ。普天間飛行場は名護市辺野古へ、那覇港湾施設(那覇軍港)は浦添埠(ふ)頭地区への移設が条件になっている。
 合意通りに嘉手納基地より南の返還が全て実現しても、全国の米軍専用施設面積の約69%が沖縄に残る。県内での基地の「たらい回し」に過ぎず、負担は変わらない。
 加えて、近年では南西諸島への自衛隊配備が急速に進んでいる。ミサイル部隊が配備され、有事の際に自衛隊が民間空港や港湾を円滑に使用するための公共インフラ整備の動きも急だ。在沖米軍には、島しょでの戦闘に特化した第12海兵沿岸連隊(MLR)が発足した。合同訓練など日米の軍事一体化が進む中、負担は増すばかりだ。
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 物価高対策が前面にせり出す今参院選で、辺野古問題は大きな争点になっているとは言えない。
 自民の奥間亮氏は「容認」、参政の和田知久氏は「見直し」、「オール沖縄」勢力が推す無所属の高良沙哉氏は「反対」と主張は異なる。
 だが、普天間の危険性除去の必要性で県民世論は一致している。
完成まで10年以上かかるとされる中、その間の危険性をどう除去するかの論議は不十分だ。辺野古の賛否など表層的な議論にとどまらず、負担軽減の実現に向けた論戦が求められる。
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