なぜ、今なのか。
石破首相は「外国人との秩序ある共生社会の実現を目指す」との方針を示す。一部の外国人による犯罪や迷惑行為などに対し、不安が高まっているからだとする。
新組織は、出入国在留管理庁や厚生労働省、財務省などの関係省庁が、外国人に関する制度や施策の見直し、発信について横断的に取り組む。
政府は深刻な人手不足を補うため、2019年施行の改正入管難民法で、外国人労働者の受け入れ拡大に向けた新たな在留資格を設けた。
以降、在留外国人は増え続け、22年には「外国人との共生社会実現に向けたロードマップ」を作成。生活や就労に必要な情報発信や相談体制の強化、ライフステージに応じた支援などを盛り込んだ。
ところが新組織を設置するに当たり、「共生社会」の前置きとして新たに「秩序ある」の文言が加えられた。
秩序が恣意(しい)的に判断されれば、在留外国人に対する差別や排除の動きが強まる恐れがある。
ロードマップが理念に掲げる「多様性に富んだ活力ある社会」「個人の尊厳と人権を尊重した社会」は後退する。
■ ■
参院選まっただ中で表明した背景に、「日本人ファースト」を掲げて支持を急拡大している参政党に対する危機感が見えてくる。
選挙戦で各党は、外国人に関連するさまざまな政策を打ち出している。
自民は公約で、運転免許取得や不動産所有などへの厳格な対応を明記した。
参政は外国人労働者の受け入れ制限などを訴える。
一方、立憲民主は多文化共生社会を掲げ、人権保護の重要性や多様性を重視した政策を打ち出している。
在留外国人に関する政策は重要な争点の一つとして急浮上している。
ただ懸念されるのは「外国人の犯罪や交通事故が増加」「高額療養費制度を不適切利用している」など、根拠のないデマや中傷が横行していることだ。
「外国人」をテーマに議論が深まるのは重要だが、過熱すれば差別や排斥の引き金にもなりかねない。社会を構築する上で最も基本的な人権尊重の意識を忘れず、丁寧かつ冷静に考えることが不可欠である。
■ ■
在留外国人の数は24年末には376万人を超え、過去最多となった。70年には日本の人口の1割を占めるという試算もある。
今や外国人労働者は、日本経済を支える重要な人材だ。彼らがいなければ立ち行かなくなる企業も多い。
人口が増えた結果、マナーの欠如や不愉快な言動を見聞きする機会がかつてより増えたことも事実だろう。