現状を放置すれば世界遺産登録が抹消される恐れもある。政府は米軍基地を提供してきた責任と、自然を保護する責任から逃げずに対応すべきだ。

 米軍北部訓練場跡地の廃棄物を巡り、国連教育科学文化機関(ユネスコ)が世界自然遺産の登録後に懸念を示していたことが明らかになった。
 チョウ類研究者の宮城秋乃さんが環境省への情報公開請求で入手した公文書で判明した。
 跡地を含むやんばる地域は2021年7月、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」として世界遺産に登録された。
 一方、登録前から照明弾や空包など米軍のものとみられる廃棄物が多数見つかっている。
 公文書にはこれら跡地の廃棄物について「ユネスコから状況確認を幾度か受けた」と書かれている。
 状況確認はユネスコ世界遺産委員会による「世界遺産条約履行のための作業指針」に基づく。世界遺産の状態に重大な劣化があるとの情報が寄せられた場合に取られる手続きの一つだ。
 最終的に登録時の意義が失われたとの結論に至れば登録が抹消される。
 04年に世界遺産登録されたイギリスの港湾都市リバプールは再開発などで12年に危機遺産に指定され、21年には「価値が失われた」として抹消された。
 「沖縄・奄美」は琉球列島特有の自然環境と生物多様性が評価を受け登録された。跡地の廃棄物問題で、そうした価値を失わせる危険性が生じている。
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 23年ごろ作成されたとみられる公文書には、地元やユネスコの懸念を払拭するため、跡地の自然保全などについて米軍と合意し「日米共同声明」を近く公表するとの説明もある。

 共同声明が突如として発表されたのは同年7月のこと。「世界遺産登録された沖縄島北部における自然環境の保全における二国間協力」として、「北部訓練場を含む北部一帯の生物多様性に係る必要な措置を講じる」ことなど3項目について日米の協力をうたった。
 だが発表時、ユネスコから懸念が示されていたことは公表されていない。
 あれから2年近くたったが、日米間の協力はいまだ見えず、会合も開かれていない。地元の批判やユネスコの指摘をかわすための「ポーズ」だったと言われても仕方がない。
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 廃棄物問題を巡っては、政府のずさんな対応が度々指摘されてきた。
 北部訓練場の過半(約4千ヘクタール)が返還されたのは16年。沖縄防衛局は跡地利用促進特措法に基づく「支障除去作業」をわずか1年程度実施し17年末に林野庁沖縄森林管理署などに引き渡した。
 しかし、作業の範囲は返還地の0・1%に過ぎない。広大な訓練場では米軍が枯れ葉剤を散布したとの証言もあり、生態系への影響が危惧される。
 自然環境保全のためにも政府は全域を調査し必要な措置を取るべきだ。
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