安保・外交政策推進の土台は国民の理解である。争点化を避けることなく、参院選で、その是非を明確に語ってもらいたい。
トランプ政権が要求するのは、国内総生産(GDP)比3・5%、年間20兆円規模の大幅引き上げだ。中国の軍事力増強や北朝鮮の核・ミサイル開発などを理由とする。
6月に北大西洋条約機構(NATO)加盟国が米国の求めに応じ防衛支出のGDP比5%で合意したことから、「欧州が可能なら同様にできるはずだ」と圧力を強めている。
しかし憲法9条の下、「専守防衛」を掲げる日本と欧州とでは、防衛支出に対する考えが異なる。
日本の急激な防衛力強化は中国を刺激することにもなりかねない。とりわけ米中対立の最前線に立たされる沖縄の危機感は強い。
石破茂首相は「わが国の防衛費の在り方は、わが国が主体的に判断する」と語るが、気になる動きもある。
参院選前に予定していた日米外務・防衛担当閣僚による「2プラス2」の開催を日本政府が見送ったことだ。
選挙への影響を避けたとみられる。
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2015年、安倍晋三首相が、集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法の成立を急いだのは、「対米公約」を優先させた結果だった。
22年末、岸田文雄首相は、長くGDP比1%前後で推移してきた防衛費を27年度に2%にすると表明した。米大統領に「防衛費の相当な増額」を示した後である。
だが財源の一部に充てる所得税の増税時期は決まらず、いまだ2%の財源さえ確定できていない。
参院選公約で自民党は「防衛力の抜本的強化」を掲げる。立憲民主党は自民党と同様、防衛力強化を掲げつつ「増税は行わない」と主張。日本維新の会は「国民の負担に頼らず2%まで増額」、共産党、れいわ新選組は増額に反対する姿勢を示している。
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物価高対策が最大の争点となっている参院選だからこそ、増税につながる可能性のある防衛費増要求についても、姿勢を明らかにする必要がある。
トランプ政権は、選挙の結果にかかわらず、日本に防衛費増額を求める構えという。
国民への説明を欠いたまま参院選後、米側の意向に沿う形で決着が図られることがないようくぎを刺しておきたい。
トランプ政権の下での安全保障をどう考えるのか。日本の防衛・外交の自律性をどう高めていくのか。
3・5%への対応が試金石となる。