参政党の「新日本憲法(構想案)」は、2年がかりで取り組んできたという「創憲」プロジェクトの成果として発表された。
「個人」より「国家」、「権利」より「義務」を前面に打ち出しているのが特徴だ。
参政党案では「国は主権を有し」、天皇は「元首として国を代表」するとある。現行憲法の中で最も重要な国民主権という文言が条文から消えた。
「天皇は神聖な存在として侵してはならない」とあるが、大日本帝国憲法の条文にそっくりだ。
国家主権の強調と、天皇の地位の格上げ。その一方で現行憲法の人権規定や自由権規定がほぼ見当たらない。
国民主権が明記されず、人権・自由権規定が大幅に削られたということは、憲法の根本原理の重大な変更を意味する。
さらに参政党案は、国民の要件について「日本を大切にする心を有することを基準」とすることもうたっている。
誰がどのような基準を設け、判断するのか。神谷宗幣代表は「宣誓してもらう」と説明する。
国民主権については「前提だった。心配だとの声があるなら書けばいい」と意に介さない。
「創憲」という割には、教育勅語の尊重をうたうなど、時代を逆戻りさせる印象を拭えない。
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沖縄戦に絡む歴史認識を巡る問題も浮上した。
福岡選挙区で初当選した参政党新人の中田優子氏は、RKB毎日放送のインタビューで沖縄戦認識について問われ、自説を展開した。
神谷代表の「日本軍は沖縄の人々を救うために沖縄に行った」との趣旨の発言について、中田氏はこう語ったという。
「全く同じように思っている」「これから正しい歴史認識を一人でも多くの方に行っていくのが、われわれの使命」だと。
神谷代表は、日本軍による住民殺害を「例外的な事例」だと説明しているが、本来あってはならない例外が数多く発生したことが、沖縄戦の特徴だということを忘れてはならない。
中田氏は「歴史認識も2パターンある」とも発言したという。
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この発言に接して思い出すのは、トランプ大統領の誕生で盛んに使われるようになった「もう一つの事実(オルタナティブ・ファクト)」という言葉である。
共通の基準としての事実を共有することが、民主主義を成り立たせる基盤である。だがトランプ政権下の米国では、事実と虚構、真と偽の区別が見失われ、社会の分断が加速し、その基盤が激しく揺らいでいる。
沖縄ではどうだろうか。 沖縄戦に関する歴史認識をまっとうに引き継いでいくためには、史実を掘り下げ、地道な実証作業を積み重ねていくことが、これまで以上に求められる。