主人公すずさんが、もし日本のどこかで生きていたら今年で100歳。映画の中で描かれるのは、戦後生まれの私が知らない昭和の最初の20年と少し。

 すずさんの暮らしが目に見えて裕福になったり不幸になったりすることはないけれど、自分ではない、どこかの誰かの大きな力で動いていく社会は、明るくなったり陰りを見せたり。
 この世界の片隅に自分の居場所を探して、見つけて、ひたすらに一生懸命生きているすずさん。食糧が足りなくなれば摘んだ野草を刻んでおかゆに混ぜて、軍艦が大好きなめいっ子と散歩がてら呉の軍港を眺めて、防空壕の中で夫とキス。
 幸せな風景の背後に少しずつ忍び寄り、立ち込め、ある日突然大切なものを奪っていく。多くの庶民にとって戦争はそういう存在なんだと再認識する。
   (桜坂劇場・下地久美子)
◇桜坂劇場で上映中
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