40年以上も続く自衛隊と防衛産業の癒着を断たない限り、防衛政策へ国民の理解を得ることはできない。
 海上自衛隊の潜水艦修理契約で、川崎重工業が架空取引により裏金を捻出した問題で、防衛省は特別防衛監察結果を公表した。

 ゲーム機や腕時計、ゴルフバッグ-。川重から物品の受け取りを認めた隊員は13人(計140万円相当)。隊員の要求が私物にまでエスカレートしていったなれ合いの構図が浮かび上がった。
 自衛隊員倫理法違反の疑いもあるとみて懲戒処分などを検討する。
 昨年7月に始まった特別防衛監察は、潜水艦の全乗組員約1500人に記名式アンケートを実施。造船会社関係者280人から直接ヒアリングもした。
 だが、受領を認めたのは13人だけ。疑義が持たれながらも証拠不足で認定できないケースもあった。物品の受け取りはあってはならないことだが、ある海自隊員は「正直者がばかを見ている」と話す。
 川重と取引先企業との架空取引は遅くとも約40年前に始まり、2023年度までの6年間だけで計約17億円に上る。「一部」が裏金としてプールされ、物品提供に使われた。
 40年も続いた不正に本当に気が付かなかったのか。

 指揮監督義務違反で海自トップの斎藤聡海上幕僚長を減給10分の1(1カ月)の懲戒処分、隊員92人を訓戒や注意の処分とした。
 結局、飲食接待の事実などは特定しなかった。海自と大手防衛産業を巡る疑惑の全容解明にはほど遠い。
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 癒着の背景にあるのが、市場競争の原理が働きにくい防衛産業の特殊性だ。
 潜水艦の製造・修理は専門性が高い。国内で製造しているのは2社だけで、修理も主に2社が行う。人間関係も濃密になりがちだ。
 艦艇の修理を担当する海自の「監督官」が、川重などに乗員向けの物品調達を依頼していたことにも驚く。
 発注工事を水増しするなどし各社に費用を補填(ほてん)していた。十分な工具類や備品がすぐには得られない、海自の調達体制が何十年も放置されてきたという「構造的問題」もある。
 監察結果は、発注工事を監視する立場にある監督官が、乗員への物品提供に関わっていたと指摘し、「不正の温床」と批判した。
 癒着の構造は、海自だけなのか。
自衛隊、防衛産業全体に及んでいないか。徹底的な調査が欠かせない。
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 防衛省は昨年7月、特定秘密の不適切運用やパワハラなど4項目で最高幹部を含む218人を大量処分した。海自は潜水手当を水増し、不正に受給していた。
 防衛省・自衛隊には、規範意識の欠如、ガバナンス(統治)の不全など組織体質が問われている。
 物品を受け取った隊員にはあきれるが、最も責任を問われなければならないのは「構造的な問題」を放置してきた防衛省だ。
 必要なのは、外部からの自衛隊に対するチェック機能の強化である。国会の監視が一層重要だ。
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