パレスチナ自治区ガザで「集団飢餓」が広がっている。骨と皮だけの乳児や、力なくわが子を抱く母親の姿は人道上の危機が今まさに起きている証しだ。
事態の放置は許されない。
 ガザの食料事情が急速に悪化したのは7月に入ってからだ。現地の保健当局は30日、戦闘開始以降、餓死者が子ども89人を含む154人になったと発表した。このうち半数以上が7月に亡くなっている。
 ガザの人道支援を巡っては、これまで国連中心で行ってきた。
 ところがイスラエルは今年3月、支援物資がイスラム組織ハマスに渡っているとしてガザへの物資搬入を停止。5月下旬からはイスラエルと米国の主導で設立された「ガザ人道財団」が食料配給を始めた。
 だが、支援物資は圧倒的に不足している。4カ所しかない配給拠点では食料をもらおうと集まった住民へイスラエル軍が発砲し、千人以上が死傷する事態も起きている。
 イスラエルのネタニヤフ首相はガザで飢餓は起きていないと主張する。
 一方、イスラエル側に立つ米国のトランプ大統領はここに来て子どもたちが飢餓に陥っていると公言。「食料センター」の設置方針を示した。

 国際社会の批判を受け、イスラエル軍は7月27日、支援物資の搬入のため戦闘を限定的に休止。物資の空中投下も実施したが、「大海の一滴」(国連人道問題調整室)でしかない。
 緊急を要する状況だ。イスラエル政府は今すぐ無条件で支援物資の搬入を認めるべきだ。
■    ■
 ガザの飢餓については、イスラエル国内からも強い批判が出ている。
 国内二つの人権団体が会見し、イスラエルが、ガザへの攻撃に加え、意図的に人道支援を妨害して飢餓状態に追い込んでいると指摘。こうした行為は「パレスチナ人のジェノサイドにあたる」とした。
 かつてナチスの迫害にあったユダヤ人が率いる人権団体の訴えだ。自国民でもある。きっかけはハマスからの攻撃だったとしても、これ以上の戦闘継続は正当化できない。
 1年半を超える戦闘でガザでの死者は6万人に上った。ガザの産業は壊滅し、住民は支援物資に頼るしかない。

 イスラエルとハマスの双方は、物資搬入を円滑に進めるためにも停戦協議に応じるべきだ。
■    ■
 カッツ・イスラエル国防相は「人道支援物資の停止がハマスへの強い圧力になっている」とした。
 しかし、戦争にも最低限のルールがある。飢餓を武器にするなどもってのほかだ。
 G7主要国のフランスと英国、カナダはパレスチナを国家承認する方針を相次いで表明した。イスラエルへの圧力を強める狙いがある。
 日本政府は依然として生煮えの態度だが、人道主義の観点から承認すべきだ。この事態に黙していることは認められない。
編集部おすすめ