原爆は街を一瞬にして壊滅させ、多くの命を奪った。生き残った人々も、放射線による病気や偏見に苦しめられてきた。
被爆者たちはこの80年間、「二度と繰り返してはならない」と核兵器廃絶を訴えてきた。「ふたたび被爆者をつくるな」を合言葉に、核兵器のない世界の実現に向けた努力が高く評価され、昨年、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)がノーベル平和賞を受賞した。受賞後、初めての原爆の日となる。
草の根の反核運動をリードしてきた被団協。ノーベル賞委員会のフリードネス委員長は、7月の都内での講演で「被爆者が行ってきた活動は世界が必要としている光だ」とたたえた。
米国内では、第2次大戦を終わらせたとして原爆投下を正当化する声が根強い。だが、米調査機関がことし6月に米国人を対象にした調査で、30歳未満では原爆投下を「正当化できない」との意見が44%で、「正当化できる」の27%を上回った。若い世代ほど、否定的な回答が多い。
核兵器の開発や保有を禁じる核兵器禁止条約の発効においても、被爆者たちが果たした役割は大きかった。条約実現の背景には過酷な体験を語り、訴えてきたことがある。
世界に実相を伝える被爆者たちの取り組みは、地道だが、確実に核の非人道性の認識を広げてきた。
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だが、国家レベルでは国際協調や核軍縮の流れに逆行し、軍備増強が加速している。
北大西洋条約機構(NATO)は、加盟国の防衛費を国内総生産(GDP)比で従来の2%から5%に引き上げる新たな目標を採択。フランスのマクロン大統領は、フランスの核抑止力を欧州全体に拡大させる構想を発表した。
ロシアによるウクライナ侵攻やイスラエルのガザ攻撃、米国のイラン核施設への爆撃など国際法上認められない暴力が平然と繰り返されている。国際平和と安全の維持を目的とした国連の基本原則である国連憲章も機能しなくなっているのが現状だ。
冷戦時代のように、各国が軍事力の増強に走るのは極めて危険だ。核軍縮に責任のある核保有国こそ、核廃絶を望む世界の声に向き合う義務がある。
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国内に目を向ければ、政府は米国が核を含む戦力で日本防衛に関与する「拡大抑止」の強化を図っている。日米両政府が有事を想定した机上訓練で、核兵器を使用するシナリオを議論していたことも判明した。
日本は核兵器禁止条約を批准せず、締約国会議へのオブザーバー参加も見送り続けている。
「核のタブーが崩されようとしていることに限りない悔しさと怒りを覚える」。