またも「口約束」では、言葉通りの修正が行われるかは見通せない。今後も二転三転する恐れがある。

 トランプ米政権が「相互関税」の新たな税率を発動した。相互関税は約70の国と地域が対象で、それぞれに10~41%の税率を課す。日本には一律15%の上乗せ関税を発動した。
 相互関税を巡っては、合意後、日米の認識のズレが表面化。合意文書を交わしていない中、実際にどう適用されるか懸念されていた。
 まさに「不安的中」といったところだ。
 これまでの相互関税は10%だった。先月下旬、日本政府は関税交渉の結果、既存の関税率が15%未満の品目は一律15%、牛肉など15%以上の場合は追加されずに従来の税率が維持されると説明してきた。
 ふたを開けると、こうした特例措置は欧州連合(EU)には適用されたが、日本は対象外だった。
 現行の27・5%から15%への引き下げが合意されたはずの自動車関税については、相互関税と同時には実施されなかった。
 これを受け赤沢亮正経済再生担当相が、ベセント財務長官、ラトニック商務長官とそれぞれ協議。米側から関税発動の大統領令を「適時に修正する」意向が示されたとした。

 だが、なぜこうした事態に陥ったのか。米側のミスだったのか。日米政府からの説明はない。
 今回の確認事項についても文書は作られておらず、米側が着実に実行するかはなおもあいまいだ。
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 米側は日本車への関税引き下げも大統領令の修正と同時期に実施する方針を示したという。
 ただ、修正の時期などは具体的に示されていない。引き下げが遅れれば、輸出産業を中心にダメージが広がる恐れがある。
 半導体産業も心配だ。トランプ大統領は関税発動の直前になって、半導体に約100%の関税をかける方針を示している。医薬品にも高関税を課す考えを示している。
 関税合意には5500億ドル(約80兆円)の巨額な対米投資も盛り込まれた。
 トランプ大統領は投資利益の9割が自国に入るとの認識を示している。
一方、日本側は対米投資の枠組みは出資や融資、融資保証からなり、米側が9割の利益を得るのは出資案件に限るとみている。
 混乱が収まる気配はいまだ見えない。
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 日本の輸出額に占める米国向けの割合は約20%を占める。こうした事態が繰り返されれば景気の減速や停滞を招きかねない。
 国際ルールを無視するトランプ関税は非合理だ。今後も粘り強く交渉する必要はあるが、米国に依存し過ぎるのはもはや危ういと見るべきだ。
 自動車産業だけでなく、他の産業育成にも力を入れる。米国だけでなく、アジアなどの新興市場も掘り起こす-。
 危機に対応できる柔軟な経済をつくる政策が求められている。
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