天久仁・社会部ワラビー担当
 ハンディキャップのある人たちの社会・芸術活動への参加をサポートする取り組みが、全国的に動き出している。情報発信に携わる一人として、何か力になれないかと考えるとき、思い出す言葉が「誰一人取り残さない教育を目指して」。
3年前の第28回NIE全国大会松山大会、県立松山盲学校が実践報告で掲げた副題だ。

大人から子どもまで、観客が思い思いのスタイルで演奏を楽しんだ「跳びはねてもいい音楽会」=3月16日、那覇市・ともかぜ振興会館

新聞の果たす役割とは
 7月31日と8月1日の両日、第30回NIE全国大会神戸大会に参加した。今年は全国から1700人以上の教育関係者や新聞関係者が集まった夏の風物詩だ。取材した情報をどれだけ正確に広く届けられるか、新聞を読んでもらうにはどうしたらいいか、考える2日間でもある。
 神戸ポートピアホールで開かれた初日の全体会では、 舞台袖にモニターが設置され、要約筆記による記念講演やパネル討議の同時通訳が行われた。しかし、傍らに用意された「耳の不自由な方」向けの席に、座っている人はほぼいない。
 最終日は27の分科会中、特別支援学校の実践発表は1件だった。兵庫県立のじぎく特別支援学校の報告は、時事問題を読んで興味の範囲を広げるとともに、新聞づくりの取材を通して周囲とのつながりも広げたという。新聞が社会参加のツールとして活用された一例だ。

今年のNIE全国大会神戸大会、全体会の会場。要約筆記による同時通訳が用意されていた=7月31日、神戸ポートピアホテル

障がい者と芸術をつなぐ
 話題は変わるが、障がい者がアートに接する機会は、健常者に比べて著しく少ない。それはコストがかかるから。
たとえば、聴覚にハンディのある人向けの演奏会を企画する場合、手話通訳や要約筆記、プログラムの点字表記など、通常の公演に比べて追加の人的配置や協力が必要になる。時間と労働力、そしてコスト。人的にも財政的にも余裕がなければ、とてもじゃないが成立しない。
 2024年夏、県立沖縄盲学校三線クラブと那覇文化芸術劇場なはーとによるワークショップを取材した。生徒らは琉球箏曲盛竹会や県立芸大の協力を得ながら、足かけ3年の準備を経て開催にこぎつけた。
 今年3月に琉球フィルハーモニック(琉フィル)が開いた「跳びはねてもいい音楽会」は、演奏中に跳んでもはねても、会場で寝そべっても、大声を出しても大丈夫という企画。当日は、視覚障がい者向けの点字のプログラムや、耳の聞こえが悪い人のための要約筆記モニターも用意された。
 ドボルザークの弦楽四重奏曲「アメリカ」などを演奏したのは、第一線で活動する実演家。琉フィルの上原正弘代表によると、だれもが一緒に音楽を楽しめるよう、演奏家にも、一般のお客さんにもコンサートの趣旨を十分に理解してもらったという。
 会場には視覚や聴覚にハンディキャップのある人、公演中に会場を歩き回る幼児など、それぞれのスタイルで音楽会を楽しむ来場者の姿があった。

音楽会では観客が限りなく舞台に近づき、プロの演奏を聴く機会が設けられた。

共生社会のために
 公演開催の背景には、施設のバリアフリー化などを通じて、ハンディのある人が文化や芸術を鑑賞する機会の拡大を目指す2018年施行の「障がい者による文化芸術活動の推進に関する法律」や、24年に「障害者差別解消法」が一部改正され、障がいのある人のバリアを取り除く「社会的配慮」が義務づけられたことがある。

しかし、最も大きいのは、芸術文化の送り手が現場で実際に感じた「本物に触れたい」という当事者のニーズだという。
 芸術文化と報道で畑こそ違えども「誰一人取り残さない」ために、どうすればいいのか。これは大きな課題だ。分かりやすい文章や視覚に訴える写真、真実を伝える報道。そして、もうひとひねり。新聞に何が必要なのかを考えている。
 
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