終戦から80年の全国戦没者追悼式がきのう、東京で開かれた。遺族ら約4500人が参列し、先の大戦で犠牲になった約310万人を悼んだ。

 事前に参列意向を示した遺族のうち戦後生まれが53%と初めて半数を超えた。戦争を直接知る世代が減り、記憶継承の在り方が問われている。
 石破茂首相は式辞で「進む道を二度と間違えない。あの戦争の反省と教訓を、今改めて深く胸に刻まねばならない」と述べた。
 首相の式辞に「反省」の文言が盛り込まれるのは13年ぶりだ。
 1994年に村山富市氏がアジア諸国への「深い反省」を表明して以降、2012年の野田佳彦氏まで歴代首相は「反省」に言及してきた。
 しかし、13年の安倍晋三氏は言及せず、その後の菅義偉氏、岸田文雄氏も触れなかった。
 石破首相は今回、アジア諸国に対する加害責任には触れない形で復活させた。
 日本はかつて先の大戦を「大東亜戦争」と称し、アジアを欧米の支配から解放し新たな秩序を築くためと戦争を正当化した。
 アジアの人々からは当初、期待もあったという。
 だが、実際には日本の言葉や文化を強制され、労働を強いられた人たちも多かった。
 軍隊には食料や日常品、果ては女性までも「供出」させられた。
従わない者や逃げ出した者は殺されもした。
 それが、沖縄で、広島・長崎で、各地で大きな犠牲を出した戦争の、もう一つの実態だ。
■    ■
 式典では正午の時報に合わせて全員が黙とう。天皇陛下は「戦中・戦後の苦難を今後とも語り継ぎ、将来にわたって平和と人々の幸せを希求し続けていくことを願う」とのお言葉を読み上げた。
 「語り継ぐ」という言葉からは、戦争体験者の苦しみや痛みに向き合い、主体的に戦争のことを語っていこうとする意思が感じられる。
 戦争体験者が少なくなる中、歴史的事実を歪(わい)曲(きょく)化するような発言が相次いでいる。
 ひめゆりの塔の展示に関して「歴史の書き換え」と言い放った参院議員もいる。
 同じ過ちを繰り返さないようにするため、今こそ過去の「加害」と「被害」の両方をしっかりと見つめ直す時だ。
■    ■
 戦後80年に当たり実施された世論調査では、戦後の歩みの中で良かったこと(三つまで回答)を問うと「他国と戦争をしなかった」が最多の50%に上った。
 一方、現在の世界の秩序や価値観について「望ましくない方向に変化している」と回答したのは75%だった。
 世界のあちこちで戦争や紛争が起きている。
 日本でもポピュリズムが台頭し社会の分断が進む中、平和の維持に不安を抱く人が増えている。

 今こそ戦後の平和国家としての歩みを継承する努力が求められる。 
編集部おすすめ