ロシアがウクライナに侵攻して以降、初となる対面での米ロ首脳会談がアラスカであった。
 3年半も続く戦争を終わらせ和平への道が開かれることに世界の関心は集まったが、停戦合意には至らず、期待外れに終わった。

 これまで通り強硬論を繰り返すロシアのプーチン大統領に対し、仲介役としてのトランプ米大統領の「ディール(取引)外交」の限界も見えた形だ。
 会談後の共同記者発表で口火を切ったのはプーチン氏。「危機の根本的な原因を除去しなければならない」と語り、ウクライナに譲歩を迫る姿勢を崩さなかった。
 念頭にあるのは、ウクライナ東南部4州のロシア併合の承認、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟放棄などである。
 一方、トランプ氏は「多くの点で合意したが、大きな問題がいくつか残っている」と成果を強調。だが合意点についての説明はなかった。
 気になるのは会談後のテレビインタビューで「合意はゼレンスキー氏次第だ」として「取引に応じるべきだ」と呼びかけたことである。
 米ロの2大国が「対立から対話へ」と動き出したことは確かだが、その大国の決定を無理やりウクライナに押し付け、侵攻した側の独り勝ちを許すようなことがあってはならない。
 戦後の国際秩序を形成する上で、重要なのは「公正な和平」の実現である。
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 今回、プーチン氏を交渉の席に着かせるため、トランプ氏はロシアを孤立させる圧力政策を転換した。8日を期限とした対ロ制裁の見送りも表明した。 
 会談場所となったアラスカ州の米軍基地ではレッドカーペットを並んで歩き、米大統領専用車ビーストで一緒に移動するなど異例ともいえる対応を見せた。

 プーチン氏は肝心のウクライナ情勢で妥協しなかったものの、エネルギーや宇宙分野での米国との協力には期待を表明した。
 結局、得るものが多かったのは制裁を回避し、米大統領と並んだ姿を世界に発信したプーチン氏ということになる。
 ロシア軍はウクライナ東部で攻勢を強め、民間人被害が拡大している。停戦への道筋が示されない中、時間を稼いだロシアがさらに攻勢に出る懸念が強まる。
 今この時も死傷者が増え続けていることを思うと、怒りすら覚える。
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 当事者不在の「領土交渉」にゼレンスキー氏は警戒心を強めている。18日にはワシントンを訪問し、トランプ氏と会談する。
 ウクライナのNATO非加盟は米国や欧州各国のほぼ共通認識だ。領土問題、軍備制限は長期間の交渉が必要となるので、まずは停戦を先行させてほしい。
 大事なのは大国の力による解決の押し付けではなく、国際法に依拠した公正な解決だ。
 ウクライナの譲歩で終わらせることがないよう、トランプ氏の仲介役としての真価が問われる。
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