「公正な和平」の実現がますます重要になっている。
 米国のトランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領が会談した。
トランプ氏はウクライナが求めている、ロシアの再侵攻を防ぐための「安全の保証」に米国として関与することを明言した。ロシアのプーチン大統領とゼレンスキー氏の会談に向けた調整にも着手した。
 会談後の会合には、イギリスやフランス、ドイツなど欧州の首脳らも参加した。ロシアによる侵攻から3年半、戦争終結に向けた対話自体は歓迎したい。
 ただ、米国主導で進める和平交渉は、侵略国側を利する形で進んでいるのが実態だ。
 欧米メディアによると、プーチン氏は15日のトランプ氏との会談で、ウクライナ軍の東部ドンバス地域からの撤退と全域割譲を求めた。トランプ氏はウクライナと欧州の首脳にロシアの提案を受け入れるべきだと伝達。ゼレンスキー氏との会談でも領土問題に関し「議論する必要がある」と述べ、プーチン氏への配慮をにじませた。
 しかし、領土不可侵を定めた国際法に反し、ウクライナに侵攻したのはロシアである。
 国際社会は先の大戦の反省を踏まえ、「法の支配」により平和を維持する規範をつくり上げてきた。領土割譲を受け入れれば、ロシアの「力による変更」を認めることになる。国際秩序の根幹を揺るがすもので、到底容認できない。

■    ■
 「法の支配」が破綻すれば、影響は世界に波及する。だからこそ、割譲にはウクライナだけでなく欧州各国も反対している。
 ドイツのメルツ首相はトランプ氏との会合後、「ウクライナが領土の割譲を強制されてはならない」と訴えた。ロシアが求めるドンバス地域の割譲を米国に例え「フロリダ州を放棄しなければならないようなものだ」とけん制した。
 東アジアに目を向ければ、中国はインド太平洋地域で海洋進出を強め、台湾統一を国家目標に掲げている。武力による現状変更が是認されれば、東アジアも決して無関係ではない。
 ゼレンスキー氏は、プーチン氏と無条件で会談に応じる用意があると記者団に述べた。ロシア側は応じるか明言していないが、一刻も早い停戦には両者の話し合いが不可欠だ。
■    ■
 ウクライナに提供する「安全の保証」は、日本を含む30カ国が関与する見通しだ。ウィットコフ米特使は北大西洋条約機構(NATO)に類似した仕組みに言及。戦闘終結後、欧州有志国がウクライナに部隊を派遣する案が出ている。
 トランプ氏は「欧州が負担し、米国が支援する」と消極的な姿勢だが、米国は仲介役の役割をしっかり果たさなくてはならない。

 米ロ、ウクライナの3者だけでなく、欧州各国も関わる形でぎりぎりまで調整して知恵を出し、戦後の秩序づくりも含めた和平の実現を前に進めてほしい。
編集部おすすめ