従来型の紙などの健康保険証が次々と有効期限を迎えている。
 後期高齢者医療制度に加入する75歳以上の約1900万人、国民健康保険に加入する自営業者ら約1700万人の保険証は7月末ですでに失効した。

 会社員やその家族らが加入する大企業の健康保険組合、中小企業向けの「協会けんぽ」も12月には使えなくなる。
 失効後は原則、保険証機能を持たせたマイナンバーカード「マイナ保険証」か、保険証代わりの「資格確認書」が必要になる。
 トラブルや周知不足を自覚してのことだろう。ここへ来て厚生労働省は、暫定ルールを頻発している。
 有効期限が切れていても、来年3月末までは保険診療を適用し、窓口で10割負担を求めず通常の負担割合とする。75歳以上に限っては全員に、来年夏まで使える資格確認書を送る-などだ。
 暫定措置を取る背景には、マイナ保険証の利用率の低迷がある。今年6月時点でわずか3割にとどまり、従来の保険証からの移行が進んでいない。
 病院窓口などでの混乱を避けるためとはいえ、例外措置の頻発は、自治体や医療現場に負担をかけている。「何だかややこしくて」と不安を口にする高齢者も多い。
 もとより、例外を繰り返さなければならないこと自体が無理筋の一本化だったことを物語る。
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 「なぜ従来型の保険証では駄目なのか」。
国民からは今もそんな声が絶えない。
 マイナ保険証への一本化が決まったのは2022年。当時の河野太郎デジタル相が、健康保険証の廃止とマイナ保険証への切り替えを発表した。マイナカードを普及させようと強行策に踏み切った形だった。
 しかし運用後、マイナ保険証を端末で読み取れなかったり、端末に表示された情報が文字化けしたり、他人の医療情報がひも付けられていたりとトラブルが相次いだ。
 さらに内蔵された電子証明書の有効期限が切れ、受診できないといった問題が最近、多発している。
 国民の理解が深まらない中での見切り発車が今も尾を引いている。
 そもそも任意のマイナンバーカードと国民皆保険制度を組み合わせたことに無理があったのではないか。一本化したことで任意は義務となった。
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 マイナ保険証は、過去の診療情報や処方薬を医師と薬剤師が共有できるため、より適切な診療につながるなどの利点がある。
 一方で、極めてセンシティブな個人情報が漏れる不安が常に付きまとう。
 国民が広く使う制度だ。
かゆいところに手が届く配慮が必要だ。国のやり方を押し付けるのではなく、利用者の声を丁寧に拾い、誰もが使いやすいものにするべきだ。
 特に健康保険証をよく使うのは高齢者である。デジタルのマイナ保険証と、アナログの紙などの保険証を併用させるべきだ。
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