野放図な軍事化に歯止めをかけ、住民中心の町政運営を進めてほしい。
 与那国町長選挙が投開票され、元町議で保守系の上地常夫氏が、現職の糸数健一氏と、元町議で革新系の田里千代基氏を破り、初当選を果たした。

 上地氏は陸上自衛隊与那国駐屯地の開設に理解を示しつつも、長射程ミサイルの配備などさらなる自衛隊の機能強化や、島内での日米共同訓練には反対としている。
 糸数氏の任期中には、航空自衛隊の移動式レーダー部隊常駐化や、陸自電子部隊が新たに配備。地対空ミサイル配備の計画も進む。
 こうした動きに対し上地氏は「(糸数氏は)国防には汗をかくが、島の内側は全く見ていない。自衛隊ファーストだ」と批判し、「町民ファースト」の町政に戻すと訴えた。
 町は人口の約2割を自衛隊員とその家族が占める。そうした中でも上地氏が勝った背景には、島の軍事化への懸念や警戒感があったのではないか。
 糸数氏は昨年5月、都内の集会で、いわゆる「台湾有事」を想定し、「一戦を交える覚悟が全国民に問われているのではないか」と発言し批判を浴びた。
 住民の生活と安全を守る町長として軽率かつ挑発的な発言であり、批判は当然だ。意図について説明を求められたものの、いまだに明確な回答はない。
 住民の懸念に真摯(しんし)に向き合おうとしない糸数町政に、有権者が「ノー」を突き付けた形だ。
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 発言と同時期には駐日米大使が、大使として初めて町を訪れた。
日米連携をアピールし、中国をけん制するような訪問だった。
 政府の「特定利用空港・港湾」指定を巡っては、比川地区への新港計画も浮上している。前提になっているのは自衛隊・米軍の施設利用だ。
 急速な島の軍事化は、地域の分断にもつながりかねない。地域の声に丁寧に向き合う姿勢が求められる。
 町では医療福祉に関する課題も山積している。
 昨冬から町内唯一の特別養護老人ホームが人手不足などを理由に閉鎖。町唯一の診療所も来年度から医師が不在となる問題が浮上している。
 上地氏は医療福祉体制の構築を前面に訴え、保守層をはじめ革新や無党派層までの幅広い支持を得た。
 医療福祉は離島住民にとって欠かせない生活インフラだ。県には、診療所の運営や医師確保へ積極的な支援を求めたい。
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 人口減少も島にとって大きな課題だ。

 目立つのが女性比率の低下だ。昨年12月時点の人口1689人の内訳は、男性58%に対し女性は約42%にとどまっている。
 女性の減少は少子化に直結し人口減少を加速させる。上地氏は「減少を緩やかにするために町民が好きな町にし、Uターン者を増やしたい」という。
 地域の活性化へ、足元の暮らしのニーズに応える施策こそが必要だ。
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