石破茂首相が辞任する意向を表明した。
 参院選での自民党大敗を受け、責任を問う声は日増しに強くなっていた。

 しかし、首相は「政治空白をつくるべきではない」と続投を表明。日米関税交渉合意の実行を理由に続投に意欲を示してきた。
 その結果、何が起きたか。参院選からの約50日間で目立ったのは首相の進退を巡る党内の駆け引きだ。
 政策課題は後回しとなり、物価高対策も、ガソリン暫定税率の廃止も、企業・団体献金の見直しも、この間、首相が指導力を発揮する場面は見られなかった。
 首相は「地位に恋々とするものではない」としたものの、結果起きたのは、自身が最も避けたいとしていた「政治空白」である。
 自民は総裁選前倒しの是非を判断する意思確認の結果をきょうにも公表する予定だった。そうした中、森山裕幹事長ら党4役がそろって辞意を表明。閣僚内からも前倒し要求が相次いでいた。
 一方、首相の進退を巡っては、報道各社の世論調査で「辞任すべき」を「辞任は必要ない」との回答が上回る「逆転現象」も起きた。
 国民に、派閥裏金事件への批判が根強く残っていることの証しではないか。
 辞意表明会見で首相は「政治不信を払拭できなかったことが最大の心残り」とした。

 政治改革へ具体策を実行できず、1年足らずで退陣に追い詰められた形だ。
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 「保守リベラル」の石破氏に期待されたのは党の改革だった。
 総裁選では基地問題の解決に関して日米地位協定の改定に言及。「運用の改善でことが済むとは思わない。見直しに着手する」とまで踏み込んだのである。
 しかし、総裁になった途端トーンダウンした。政治改革へのリーダーシップも期待されたが「らしさ」を発揮できなかった。
 党総裁が選挙大敗の責任を取るのは当然だろう。
 ただ、世論調査では、自民大敗の原因について「政治とカネ」のへの対応を挙げた人が最も多かった。「党の顔」をすげ替えればいいとの考えがあるとすれば、勘違いも甚だしい。
 政治不信は根強い。政治改革の断行なくしては、国民の信頼を回復することはできないことを自民は自覚すべきだ。

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 今後は総裁選が行われる。
 国民が納得する政策推進や政治改革を実行できるかどうかの試金石となる。
 自民の参院選総括では、経済政策の不十分さとともに裏金事件が「不信の底流となっている」とした。
 衆参で少数与党となり、自民は総裁が交代しても首相を出せるとは限らない。首相の座に就いたとしても、政権運営に当たっては野党の協力が不可欠となろう。
 野党が一致団結すれば政権交代も可能な局面である。野党側も国民の信頼に応えることができるか問われている。
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