石破茂首相が党内の権力闘争に敗れ退陣を表明した途端、永田町の空気は一変した。自民党は一斉に総裁選モードに入った。

 一連の動きには既視感がある。国民はこれまでも、総裁選を巡る国民不在の権力闘争を目にしてきた。
 それを当たり前と見るのではなく、何が問題かを突き詰め、制度改革につなげる視点の転換が必要だ。
 議院内閣制の下では、議会の多数派を占める政党が行政権を握る。
 国会の首相指名選挙で、自民党の党首(総裁)が首相に選ばれるのがこれまでの通例だ。
 ただし、総裁選で総裁を選ぶのは党所属の議員や党員ら、有権者の数からすればごくわずかな人々である。
 現在、衆参両院で与党は少数派だ。もし野党が一致団結、協力して一人の首相候補を担ぎ出し、首相指名選挙に持ち込めば、政権交代が実現する可能性は十分にある。
 だが、有権者の「自民離れ」が進む一方で、野党同士の競争も激しくなり、野党各党が首相指名で一つにまとまる気配はない。
 選挙で示された民意にどのような形で応えていくか、民意をどのように実現していくか。与野党の責任は重い。
 あれほど物価高対策を強調しておきながら、いまだに具体化していないのも問題だ。

 多党化時代の新たな「連立政治」をどうつくり出すか。これが当面する最大の課題である。
■    ■
 公明党の斉藤鉄夫代表は、自民党の次期総裁について、保守中道を基本姿勢とするよう注文した。
 自民党内には石破首相がリベラル寄りだったために岩盤支持層が離れたとの見方がある。その反動で総裁選において保守色が強まるのをけん制した形だ。
 少数与党による政権運営は、野党の理解を得ることが前提条件だ。
 石破首相がそうしたように、個別事案ごとに協力できるパートナーを求めていくか、連立の枠を広げ、野党のどこかに連立入りを要請するか。
 日本の政治も国際政治も、戦後最大の分岐点に立たされている。「法の支配」を強調してやまない日本政府が、「力の支配」を前面に掲げるトランプ政権に、どのような距離感で接していくか。
 超えるべきハードルは高く、あまりにも多い。
■    ■
 しかし、その制約を突き破らないことには、新しい政治は始まらない。
 大胆な政治刷新によって、この時代にふさわしい政治を生み出すことができなければ、日本は取り残される可能性が高い。

 自民党は、大敗した参院選を検証する総括委員会の報告書を取りまとめた。
 「解党的出直し」に取り組むと言いながら、何をもって「解党的」とするのか、よく分からない。
 前回の総裁選で石破首相は、多くの公約を掲げながら党内力学によって実行できなかった。有言不実行の政治はごめん被りたい。
編集部おすすめ