米政権は国内産業の保護を目的に今年4月、輸入する自動車に25%の追加関税を課した。
関税引き下げにより税率がほぼ半分に圧縮される。日本の基幹産業である自動車業界への打撃緩和につながるものの、依然として高税率で、企業には重い負担となる。
自動車などを除く輸入品にかかる「相互関税」を軽くする特例措置も適用される。従来の関税率が15%未満だった品目は一律15%に、15%以上の場合はその税率を維持する。8月7日にさかのぼって適用し、過徴収分は払い戻すとしている。
この間の日米関税交渉で、日本側には重い「義務」も課せられた。
半導体や医薬品などの分野で、5500億ドル(約80兆円)の対米投資を約束した。交渉段階でトランプ氏は「投資先は私たちが決められる」と主張。交渉に当たった赤沢亮正経済再生相は否定していたが、結局、日米両政府の覚書で投資先はトランプ氏が選ぶことが明記された。
さらに、日本が約束した資金を提供しなければ再び米側が関税を上げられるとの文言も入った。トランプ氏が一方的に高関税を課した交渉は、一貫して米国主導で実施され、米国優位の合意に至ったと言わざるを得ない。
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日本の国内産業への影響は避けられない。自動車関税の15%への引き下げで合意した後、トヨタ自動車など大手7社は、2026年3月期の連結営業利益が最大で約2兆6700億円消失する見通しを明らかにした。
日米は米国産コメ輸入の75%増やトウモロコシ、大豆などの米農産品を年間80億ドル(約1・2兆円)追加購入することでも合意した。トランプ氏は、日本はコメ以外の米国産農産品の輸入を増やすとSNSに投稿しており、農業への影響も見通せない。
米国製の防衛装備品などの年間調達額を数十億ドル規模で増やすことも盛り込まれた。政府は25年度予算に米国製戦闘機などの購入で約1兆円を計上しており、さらに要求を強める可能性もある。医薬品の関税引き上げにも意欲的で世界経済への脅威は残ったままだ。
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そもそも、一方的な関税引き上げは国際法に違反するとの指摘がある。トランプ関税に対し中国やブラジルが貿易ルールに反しているとして世界貿易機関(WTO)に提訴している。
国内では、米連邦高裁が8月、大統領権限を逸脱し違法と判断した。最高裁はトランプ氏の上訴を受理し、今年11月に口頭弁論を実施することを決めた。
日本政府は、国際ルールや法を逸脱する可能性のある関税政策に唯々諾々として従うだけでなく、自由貿易体制の保護に向け、いま一度国際社会との連携も模索すべきだ。