県内企業の東証上場は製造業では初めてだ。
6年前には野村ホールディングスと米投資ファンドのカーライル・グループの傘下となった。突然の買収劇に当時はさまざまな懸念があったが、その後は着実に業績を伸ばしている。
本業の酒類では2022年に「オリオン ザ・プレミアム」を発売。「リゾートビール」としての知名度を背景に高付加価値化に挑んできた。缶酎ハイ分野も強化している。
もう一つの柱となりつつあるのが観光・ホテル業だ。若者に浸透するロゴTシャツはいまや沖縄観光のアイコンに。沖縄に根差したオリオンの名前を若い人向けにブランド化した成功例だ。
今帰仁村で開業したテーマパーク「ジャングリア沖縄」の出資企業にも名を連ね、新たな沖縄観光の魅力づくりに力を入れる。
利益に厳しいファンドの下で2025年3月期のオリオン単体決算は、売上高が前期比12%増の約278億円で過去最高。
上場で想定を上回る買い注文があった時に行われる「オーバーアロットメント」を含む売り出し株式数は3169万7600株。野村とカーライルが保有する全株式を売却することになり、ファンドからの「独り立ち」ともいえる。
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前身の沖縄ビールが設立されたのは1957年。すでに県外他社が占有する中、初の県産ビールとして誕生した。
知名度ゼロからのスタート。売り上げ増の原動力となったのは社長自ら飲食店を回る徹底した「市場調査」だった。
66年の台湾を皮切りに早くから海外展開にも力を入れてきた。本土での発売開始は90年。先細る国内需要への対応策として2002年にはアサヒビールと業務提携にも踏み切った。
ファンド傘下を経て今回の上場は「オリオンブランド」にどんな影響を及ぼすのか。
来年9月末には復帰後の特別措置として適用されてきた酒税の軽減措置が切れる。
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上場はこれまでの企業努力の成果であり、ブランド力のさらなる向上にもつながる。強固な財務基盤を築き上げるためにも経営の多角化、海外展開の積極性は必要だ。
ただ、沖縄の私たちが望むのは単なるグローバル企業ではない。並外れたブランド力の背景には、県民一人一人が愛飲し、守り育ててきた歴史がある。
「ワッター自慢のオリオンビール」として、グローバル化に適応しつつ、地域と共に成長し続けてほしい。