自衛隊への「差別的な風潮を改め、県民に理解と協力を求める決議」が、県議会で賛成多数で可決された。
 「自民・無所属」と公明が賛成した。

 当初案は「職業差別を許さない」との表題だった。これに公明が、沖縄戦体験からくる県民の複雑な感情に配慮すべきだと待ったをかけ、「差別的な風潮」に修正された。
 市民の抗議活動を「職業差別」を持ち出し批判するのは、差別概念の拡大解釈である。抗議活動など「政治的表現の自由」は憲法で認められており、削除は当然といえる。
 しかし修正されたとはいえ「差別的な風潮」が、具体的に何を指しているのかは示されていない。それなのにあえて決議を行い、県民に「理解と協力を求める」のは、市民の表現活動を萎縮させかねない。
 決議文には「文化や教育の場からの排除は、地域社会の成熟と多様性、共生の精神を損なう」とある。
 陸自のエイサーまつり出演などを巡り市民団体がやめるよう要請したことに端を発した決議であり、それらを指しているのだろう。
 ただ市民らも自衛隊員が個人として参加することを否定していない。問題にしているのは青年会単位で参加するまつりに、他にも出演を望む団体がある中、自衛隊が唐突に組織として参加したことだ。
 隊員それぞれが住んでいる地域の青年会の一員として踊ることもできたはずである。
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 決議文では、災害対応や緊急搬送、不発弾処理などを挙げ、自衛隊員は「県民の安全と生活を支える大切な存在」とする。
そのことに特に異論はない。
 県差別のない社会づくり条例も「誰もが個人として尊重され、いかなる不当な差別も受けることなく、自分らしく生きることは、私たちの願い」とうたう。 
 差別や誹(ひ)謗(ぼう)中傷が許されないのは当たり前との共通認識があると思っていたが、今、なぜ決議なのか。
 中谷元・防衛相の「過度な抗議」発言を受けた沖縄側の決議は、市民らの活動に「差別的」というレッテルを貼り圧力をかけようとの政治的意図が疑われる。
 復帰50年の県民世論調査で、台湾有事の武力衝突に巻き込まれる不安を実に85%の人が感じていた。沖縄戦体験に根差した強い危機感を反映している。
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 私たちが懸念するのは、抗議活動を「差別的風潮」とする決議が県民の分断と対立をあおり、沖縄ヘイトを加速させることだ。
 沖縄の軍事要塞(ようさい)化が進み、再び沖縄が戦場になるのではとの懸念が深まるほど社会の亀裂は拡大する。
 そのような懸念を放置することこそ、安全保障の負担を沖縄に強いる深刻な沖縄差別である。
 政府に求められるのは、住民に対する丁寧な対応と説明責任を果たすことだ。
 他県ではできない、しないことを沖縄では力ずくでも進めるというのでは、「差別的国策」と批判されても仕方ない。
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