性被害者への偏見はいまだに根強く、ましてや実の父親からの性的暴行である。実名での告発は一体どれだけの覚悟を必要としたか。

 高校生だった娘に対する準強姦(ごうかん)罪に問われた父親である被告に対し、富山地裁は21日、犯行は卑劣で悪質として求刑通り懲役8年の判決を言い渡した。
 裁判では昨年3月、福山里帆さんが実名を公表して家庭内での性被害の実態を訴えてきた。
 判決によると、被告は2016年8月、自宅で娘に性的暴行を加えた。暴行は中学2年から高校2年まで少なくとも計8回に及んだ。
 刑法改正前の事件のため準強姦罪が適用され、裁判は当時、抵抗できたかどうかが争点になった。
 被告は性行為を認めたものの、準強姦罪の成立要件である抵抗することが著しく困難な「抗拒不能」の状態ではなかったとして無罪を主張した。
 これに対し判決は「実の父親から性交されるという異常な事態を一人で抱え込まざるを得ず、心理的に追い込まれ、抵抗する気力をほとんど失っていた」と断じた。
 被告の「(娘は)性行為に興味があった」との主張も「性交を積極的に望んでいたことなどあるはずがない」と一蹴した。
 親子の上下関係では、他の家族に被害が及ぶ恐れや、生活できなくなることを心配して子ども側が強く拒否できないことは多い。
 被告は自らの罪と向き合うべきだ。
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 「家庭」という密室での被害の立証は困難だ。
 福山さんは中学3年の頃に交際相手を通じて母親に伝えたが、取り合ってもらえなかった。

 学校の先生や友人にもうまく伝えられず「どこにも居場所がないと感じた」という。
 転機は高校2年の頃。養護教諭に被害を訴え児童相談所に一時保護された。
 以降、襲われることはなくなったが、加害者に養われる理不尽と、いつまた再開するかという恐怖にさいなまれてきた。
 告発を決めたのは夫の支えがあったからだ。父親が逮捕・起訴されたことも気持ちを後押しした。
 判決で「報われた」と述べた福山さん。
 その勇気に応えるためにも、性加害を許さない社会づくりへの努力がなお一層求められる。
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 実子への性的虐待を巡っては2019年に無罪判決が相次ぎ、性暴力に抗議する「フラワーデモ」が各地で起きた。
 その後、性犯罪の規定を大きく見直す刑法改正が行われたが、今なお「同意していると思った」と加害者が主張すれば、故意がないとして無罪になる可能性が残されている。
 福山さんは、家庭内での性被害について「世界の誰も信用できなくなる犯罪」と語った。
 事件を教訓とし、被害に遭った時なるべく早く外に相談できるような教育を進めることも必要だ。
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