「長いお付き合いだったね」　10/31閉店のサンエーマチナトシティ、常連9人それぞれの“物語”

　３１日午後８時に閉店する浦添市の商業施設「サンエーマチナトシティ」の店じまいが着々と進んでいる。閉店セール中の２７日、衣料品や生活用品があった１階スペースにはほぼ商品がなく、売り場フロアの大半がむき出しになっていた。改装や名称変更を経て約４０年間営業。閉店を惜しみ、往時のにぎわいを懐かしむ来店客も多い。そこには変わらぬ日常があり、さまざまな「人生初」もあった。閉店まであとわずか―。（社会部・又吉嘉例）

 
閉店セールも最終盤、がらんとした売り場の店内＝10月27日、金城拓撮影

　「結婚した当時からだから、４０年近く通っている」。山城順子さん（６７）＝浦添市＝は買い物袋を載せたカートを押しながら語った。歩いて来られるひいきのスーパー。ここの食料品や日用品で子ども３人を育てたという。
　長男が幼い頃、混み合う店内で迷子になった。焦って探し回り、中央の広場にたたずむ姿を見つけてほっとしたのは、今ではいい思い出だ。その長男も３０歳を過ぎた。「（マチナトとは）長いお付き合いだったからね。とっても寂しい」
　マチナトシティは県内スーパー最大手のサンエー初の大型商業施設。「マチナトショッピングセンター」として１９８５年に開業した。県内初の郊外型商業施設でもあった。
　広場に面したソファに座ってシースルーエレベーターを眺めていた徳田久美子さん（５７）＝浦添市＝は「ガラス張りで外が見えるなんて初めて。とっても珍しかった」と目を細める。開業して間もない頃はこのエレベーターに乗りたくて、わざと立体駐車場の上階に車を停めていたそう。「乗りたい子どもたちも行列をつくっていた」

店内中央の広場「てだコート」とシースルーエレベーター（中央よりやや右手奥）=10月27日、金城拓撮影

　あの頃、濃い緑のダブルのスーツが誇らしかった。宜野湾市の又吉伸幸さん（５２）は高校卒業後の分散会のため、当時のテナント「ＭＥＮ’ｓ　ＹＡＧＩ（メンズヤギ）」で人生初のスーツを購入。「分散会は楽しかったけど、みんなばらばらになる寂しさもあったな」と懐かしんだ。
　又吉さんは記者から離れかけ、振り返り、「そういえば、宝くじ売り場で５万円当たったこともある」と笑顔で報告。「多分飲み代に使った」という。
　琉球大学付属中学校３年の赤嶺和香さん（１５）は、施設内の書店に思い出がある。「生まれて初めてマンガを『大人買い』した。気持ち良かった」と笑った。人気のバレーボールマンガ「ハイキュー！！」を全巻購入した。マチナトにあったピアノ教室にも通っていたという。「私にとって『社会』に触れた場所ですね」と表現した。

残っているテナントも閉店セール中＝10月27日、金城拓撮影

　悩みができた人もいる。浦添市の仲西強さん（７２）は先駆けて閉店したネイルサロンに月１回通う常連だった。その理由は「アート」ではなく、足の爪切り。「年を取ると体を曲げるのもおっくうだし、手の力が弱まって硬い爪が切りにくくなる。爪を切らないと靴下に穴が空くし」と困り顔。現在、近隣のネイルサロンを吟味中だ。
　コーヒーショップ「タリーズコーヒー」を週１～２回利用していたのは宜野湾市の会社員、狩俣蕉子さん（２７）。仕事帰りに寄って読書したり、手帳を付けたり、日記を書いたりしていた。「家に帰る前に気持ちを切り替える、いやしの時間だった」と、失われる「サードプレイス」を惜しんだ。
　小さい頃から買い物や遊びに通っていたという那覇商業高校１年の伊礼愛優さん（１６）と浦添工業高校１年の知念美空さん（１６）は、この日も学校帰りに「マチナト集合」だった。伊礼さんは「私の『日常』だったマチナト、ありがとう！」、知念さんは「アイラブユー、マチナト！」とそれぞれ感謝を伝えた。

1995年、改装工事を終えたばかりのサンエーマチナトショッピングセンター（現マチナトシティ）。タクシーの列が盛況ぶりをうかがわせる＝1997年5月9日、浦添市城間

　「閉店取材ですか」。宜野湾市の城間真里さん（５３）は自ら記者に声をかけ、思い出を語ってくれた。高校の頃、半ドンの土曜日に友人とタクシーで来て、ランチしたり遊んだりしたのを思い出すという。「どんどん、がらんとしていく店内を見ると自然に涙が出てくるし、なくなることを実感する。今のうちに目に焼き付けておきたい」としみじみ話した。