高市早苗首相の外交初舞台は、各国首脳に日本初の、保守派の、女性首相誕生を強く印象付ける機会となった。
 韓国の李(イ)在(ジェ)明(ミョン)大統領との会談では、波風が立たないように保守色を薄めた現実路線に徹した。

 好対照をなしていたのは米国のトランプ大統領、中国の習近平国家主席との会談である。
 日米首脳会談で高市氏は、安倍晋三元首相の後継者であることを前面に押し出し、「日米同盟の新たな黄金時代を」とアピールした。
 安倍元首相がそうしたように、トランプ氏をノーベル平和賞に推薦するとまで明らかにした。
 トランプ氏は「保護者」の役割を演じて高市氏をエスコートし、蜜月ぶりをアピールした。
 米空母艦上で見せた高市氏の跳びはねながら、はしゃぐ姿は多くの国民を驚かせた。官邸も自民党も「大成功」だと評価した。
 だが少し冷静になれば、華やかなパフォーマンスは「薄氷の上の舞踏」のように見える。
 法の支配にも自由民主主義にも重要な価値を認めず、万事が「カネ」と「ディール」(取引)。
 トランプ流の政治は国内外で大きな摩擦を生んでおり、同盟関係にある当事国にも疑心暗鬼が生じている。
 日米首脳会談から浮かび上がってくるのは、溶けやすく壊れやすい「薄氷の危うさ」である。外交を多角化し、緊張緩和に向け独自の役割を追求すべきだ。
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 「日米同盟の新たな黄金時代」とは何を指すのだろうか。
ふわっとした言葉だけが独り歩きして中身がはっきりしない。
 高市氏は、国内総生産(GDP)比2%を目標にした防衛費の増額を2年前倒しして本年度中に実現することを明らかにしている。
 現行計画でさえ財源の手当てをどうするか未定の部分があるというのに、議論もなしに計画を前倒しするというのは認めがたい。
 安倍元首相は、自民党の幹事長時代、著書の中で「軍事同盟は血の同盟である」と主張し、「日本人も血を流さなければアメリカと対等な関係になれない」と強調したことがある。
 「黄金時代」とは、そのことを指すのか。制約を取り払った集団的自衛権の全面的な行使容認は、日中対立を激化させ、確実に地域の軍拡を招く。
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 日中首脳会談は、「日中の戦略的互恵関係を推進する」という点では一致したものの、双方の隔たりは大きい。
 高市氏が中国の海洋進出や人権など多数の懸案事項を列挙したのに対し、習氏は歴史・台湾問題の重要性を強調した。
 米中対立が激化する中で、米国とともに中国包囲網を敷いたりすれば、日中関係は悪化し、日中関係が悪化すれば日本は米国依存度を高めるという悪循環に陥る。
 米国の態度が予見不可能になりつつあるだけに、米国一辺倒の外交は危険だ。
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