高市早苗首相は衆院予算委員会で、台湾有事と存立危機事態の関係について、そう答えた。
存立危機事態とは、集団的自衛権の行使が可能となる事態のことである。
台湾有事が起きた場合、中国を相手に集団的自衛権を行使する可能性にまで踏み込んだのだ。
質問したのは立憲民主党の外交・安全保障総合調査会長を務める岡田克也氏。外相経験もある岡田氏は「そういうことを軽々に言うべきではない」と首相をたしなめた。
まったく同感である。
集団的自衛権の行使が認められる「存立危機事態」という概念は、極めて曖昧だ。
「日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」
法律上はそれが存立危機であるが、文章表現が極端に抽象的であるため、憲法9条に基づく武力行使の限界がどこにあるかがはっきりしない。
同盟関係にある米軍が攻撃を受けた場合、存立危機事態に当たるとして集団的自衛権を行使し、自衛隊が中国を相手に武力行使する。
高市首相は「最悪の事態を想定しておくことは重要」と備えの必要性を強調したが、こうした踏み込んだ答弁を国会で披露すること自体、中国を刺激し、日本の安全を脅かす結果を招きかねない。
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高市氏の答弁は事前に官僚と詰めた上でなされたものなのか、それとも年来の個人的見解を述べただけなのか。
高市氏は、日中首脳会談で習近平国家主席と会い、「戦略的互恵関係」を包括的に推進することを確認した。
台湾の林信義・元行政院副院長(副首相)と会談したのはその翌日のことである。高市氏は林氏と握手する写真を自身のX(旧ツイッター)に投稿した。
日台関係を「大々的に宣伝した」(中国外務省)というわけだ。
そして今度は国会での台湾有事発言である。
ちぐはぐな外交や保守支持層を意識した突出した国会答弁によって、高市首相に対する中国側の疑心暗鬼は確実に高まる。
高市政権に必要なのは、相互不信を改善していくための具体的な努力だ。
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岸田文雄元首相は2023年1月の衆院予算委員会で、集団的自衛権の行使が可能となる存立危機事態には、敵基地攻撃能力を発動できるとの認識を示した。
日本が攻撃されていなくても、敵基地攻撃能力を行使して中国のミサイル基地をたたくことが可能になったというわけだ。
中国の武力による一方的な現状変更はとうてい認められないが、集団的自衛権の名の下に自衛隊が武力行使することにも私たちは強く反対する。
あおるような勇ましい言葉は眉に唾して冷静に聞く必要がある。

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