台湾有事を巡る高市早苗首相の「前のめり答弁」で日中関係が悪化した直後に、今度は非核三原則見直しの動き。憂うべき事態である。

 国家安全保障戦略など安保関連3文書の来年中の前倒し改定に伴い、高市首相が非核三原則の見直しを検討していることが分かった。
 核兵器を「持たず」「つくらず」「持ち込ませず」という非核三原則のうち「持ち込ませず」の概念が、米国の核抑止力の実効性を低下させかねないからだという。
 専守防衛と非核三原則は、戦後日本の平和主義の根幹を成す安保政策である。いずれも「縛り」としての側面を持つ。
 敵基地攻撃能力の保有によって「専守防衛」が揺らぎ、今度は、戦争被爆国の国是と位置付けられてきた「非核三原則」の堅持が危うくなってきたのだ。
 11日の衆院予算委員会で高市首相は、三原則を堅持するかどうかを問われ、明言を避けた。
 政府内ですでに、水面下の議論が始まっていたのである。
 首相は、経済安保担当相だった2022年の3文書策定の際、非核三原則の方針堅持に異議を唱えた経緯がある。
 実際に見直されることになれば、核兵器の惨禍を身をもって体験した被爆者の核廃絶を求める声に冷や水を浴びせることになる。
 それだけにとどまらず日本の平和主義に対する疑念が世界に広がりかねない。
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 非核三原則は沖縄返還交渉の過程で、当時の佐藤栄作首相によって打ち出されたものである。
 復帰前、沖縄には大量の核兵器が貯蔵されていた。
 返還後の核兵器の扱いが問題となり、佐藤首相は1967年12月、国会答弁で「核抜き本土並み」返還の方針を、次のように明らかにした。
 「本土としては、私どもは核の三原則、核を製造せず、核を持たない、持ち込みを許さない。これははっきり言っている。その本土並みになるということなんです」
 衆議院で沖縄返還協定を強行採決した際、野党側を切り崩す切り札として持ち出されたのが国会での非核三原則の順守決議だった。 「持ち込ませず」については、核を搭載した艦船の寄港を認める「核密約」があったことも明らかになっている。
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 核廃絶を巡る動きは後退する一方だ。中国やロシア、北朝鮮は公然と核戦力を誇示し、米国のトランプ大統領も「核兵器の実験」を指示した。
 このような状況の中で、歴代首相が踏襲してきた非核三原則の基本方針を軽々に変更すべきではない。 
 核軍縮の先頭に立つべき戦争被爆国としての信頼を損なうだけでなく、「核には核を」の考えを助長する恐れがある。
 非核三原則の見直しは米軍基地が集中する沖縄の負担増にもつながる。
 重ねて言うが、憂うべき事態だ。
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