北欧人特有の緑がかった瞳は、こちらを見ているようで見ていないような曖昧さで私の目をくぎ付けにする。表情はあまり変わらない。
本音を見せない、少し冷たい、手の届かない、圧倒的に美しいマッツ・ミケルセンは緊張感さえ漂わせる。しかしごくまれに心から笑っているような細い目になる。緊張からの緩和。彼が笑ってくれた喜びだけで心はわしづかみにされてしまう。
 そんなマッツが単純なイケメン役を演(や)っても、もはやつまらない。と思ったからなのか、完全に「美」を封印したのがこの映画。頭は禿(は)げ上がり、終始滝のような汗をダラダラと流し、人肉を売りさばく危険な男を彼は完璧に演じあげた。
 それにしても、なんて優しい映画なのだろう。人間の弱さと愚かさの先に愛を描いた唯一無二の「カニバ映画」。醜いはずのマッツが美しく見える瞬間すら訪れる。
    (桜坂劇場・下地久美子)
◇桜坂劇場で上映中
【桜坂劇場・下地久美子の映画コレ見た?】『フレッシュ・デリ』...の画像はこちら >>
編集部おすすめ