日中関係悪化の影響が急速に広がっている。
 高市早苗首相が台湾有事に関し武力行使を伴えば「存立危機事態」になり得るとした国会答弁から2週間。
中国の航空会社が日中間の航空便を減らし、両国の交流行事も次々と中止になっている。
 県内では宮古島市の平良港に来航予定だったクルーズ船1隻で乗客の下船がキャンセルとなったほか、高校生ら20人の中国への研修派遣が取りやめになった。
 中国政府は日本への渡航自粛を呼びかけており、首相答弁に対する反発が背景にあるのは間違いない。
 首相答弁は集団的自衛権行使を個別ケースに当てはめており、歴代政権の公式見解や国会答弁を踏み越えている。軽率と言わざるを得ない。
 中国は台湾を「核心的利益」と位置付ける。「戦略的互恵関係」を改めて確認した10月末の日中首脳会談で中国側は台湾問題に口を挟まないよう重ねて申し入れていたという。
 その直後に飛び出した発言だ。中国から見れば申し入れを無視されたのに等しく、反発に出ることは想像に難くない。反応を見くびっていたとしたら高市外交の「失態」だ。首相自身も「特定のケースを想定したのは反省点」と述べている。
 とはいえ、中国側もやり過ぎだ。
翌8日には薛剣駐大阪総領事がSNSに「汚い首は斬ってやる」と投稿した。すぐに削除されたものの、使うべき言葉ではない。
 外交儀礼を著しく欠いた問題投稿だ。
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 中国外務省は日本の金杉憲治駐中国大使を呼んで抗議し、首相の発言撤回を要求した。
 中国側は日本の治安が悪化し、中国人に対する犯罪が多発しているとして渡航や留学の自粛を求めているが、根拠も示されておらず明らかに度を超した対応だ。
 スパイ摘発を担う中国国家安全省は日本人の摘発をちらつかせ、日本側は在留邦人に安全対策を呼びかける事態にもなっている。
 互いに非難の応酬となれば問題をこじらせるだけだ。
 米国の関税対応などで日中両国ともに経済不安が広がっている。そうした時に対立を民間に持ち込めば両国とも多大な損失を招きかねない。
 日中双方に冷静な対応を求めたい。
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 近くG20サミットが開かれる。中国の李強首相は高市首相と会談する可能性を否定しているが、この機会を対話の糸口にしたい。

 高市首相は自身の発言が発端であることを忘れてはならない。
 日中関係の土台は1972年の日中共同声明だ。日中戦争、太平洋戦争を経て、全ての紛争を平和的手段により解決し、武力や武力による威嚇に訴えないと確認した。
 日中国交回復に尽力した両国の先人たちの努力を改めて思い起こしたい。関係改善に向け、最大限の努力が両国に求められる。
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