総額21兆3千億円。高市政権がまとめた初の総合経済対策は、財政規律への配慮を後回しにした大規模なものとなった。

 不況でもないのにそこまでする必要があるのか。
 「責任ある積極財政」の看板を掲げる高市早苗首相は、何よりも「規模」にこだわった。
 少数与党の下で補正予算案を通すためには野党の主張を取り入れる必要があり、家計の負担を軽減する施策については、野党の要望を数多く盛り込んだ。
 18歳以下の子どもに対する1人当たり2万円の給付もそうである。所得制限を設けないため富裕世帯にも給付される。
 自治体が自由に使える「重点支援地方交付金」に2兆円を計上し、食料品高騰への対応として1人当たり3千円程度のおこめ券や電子クーポンを配れるようにする。 
 来年1~3月に電気・ガス代補助を再開することも決めた。小売り各社に補助金を出すことで、家庭の支払額を合計で7千円程度引き下げる。
 全体として一過性のばらまきという性格が強く、政策実現に必要な費用の多くは国債の発行で補われる。
 高市首相は、基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化について見直しにも言及している。
 積極財政の足かせになるような単年度の黒字化目標を取り外したのである。  金融市場では、国債の増発で財政状況が一段と悪化するのではないかとの警戒感が、一気に広がった。

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 高市政権は「責任ある積極財政」と言う。「責任ある」というのは何を意味するのか。
 明確な財源が示されなければ「責任ある積極財政」とはいえない。
 金融市場では財政政策への懸念から、日本国債と円を売る動きが加速しているという。
 財政拡張政策が円安を招き、円安が輸入物価を押し上げ、食料品価格が高騰する。その恐れが浮上しているのだ。
 物価高対策のはずが、結果として、物価高を助長する懸念が拭えない。
 日本はインフレ下にある。インフレを抑制するためには日銀の利上げが必要だ。
 ただ物価を抑制するために金利を上げれば、残高1100兆円の国債の利払いが膨れ上がる。
 高市政権のジレンマは深い。
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 総合経済対策には、物価高対策のほかにも、重要な柱がある。

 人工知能(AI)や半導体、造船などの重要分野への投資を拡大することと、防衛関連予算を国内総生産(GDP)比で2%に増やす時期を2年前倒しすることである。
 防衛予算について小泉進次郎防衛相は、本年度中に実施する事業を補正予算で措置することで「2%水準も結果として達成する見込み」だと語った。
 だが財源をどこに求めるのか。肝心の必要性と財源に関する論議は何も進んでいない。
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