[オキちゃん 飛んだ半世紀](1)
 ミナミバンドウイルカの「オキちゃん」が天国に旅立った2日。午後3時のショーで女性飼育員が「悲しい知らせ」をアナウンスすると、客席から「えー」と悲鳴に近いどよめきが上がった。

 「性格はとても温厚で、50年間ショーの中心で活躍したまさにスターだった…」。経歴10年以上のベテラン飼育員が準備した紙を読み上げる。声は震え、目には涙があふれていた。
 2日早朝に息をしていないのが確認されたオキちゃん。沖縄美(ちゅ)ら海水族館の開館前、これまで関わった職員が集まり「お別れの時間」をつくった。亡きがらを囲み 「美ら海のシンボル」にそれぞれ言葉をかけた。
 これまでオキちゃん劇場を運営する歴代飼育員の間には「イルカは野生動物で、あくまで仕事で飼っている。個人の所有物じゃないし、死んでも泣かないのがプロ」という感覚が受け継がれてきた。
 同劇場で16年間働く比嘉克(すぐる)さんはプロとして「情」を持ち過ぎると良くないと考える一人。
 正確な死因を究明するため早く解剖に回す必要があることや、来場者に亡きがらを見せないために素早い処理が求められる。「やるべきことがたくさんある。悲しみに暮れることなく淡々と次のやるべき業務をする。
それがこれまでのプロ意識とされてきた」
 「それでも」と比嘉さんは言葉をつないだ。「イルカは家族より一緒にいる時間が長い。暗闇でもシルエットで分かるし、何なら呼吸音だけでどの子か分かる。愛着は湧く」
 死の翌日3日、比嘉さんは満員のショーの観客に「悲しい知らせ」を伝える役割を担った。「私たちにとってなくてはならない存在でした」。目には涙がたまっていた。
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 オキちゃん劇場の看板イルカとして半世紀にわたってショーに出続けたオキちゃん。足跡をたどり、残したものを考える。(北部報道部・松田駿太)
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「死んでも泣かないのがプロ」 それでも…家族より長く過ごした「オキちゃん」 飼育員、涙声で旅立ちを伝える
ショーでお客さんにオキちゃんの死を伝える飼育員の比嘉克さん=3日
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