氏名は人格の象徴であり、アイデンティティーにも深く関係する。選択的夫婦別姓の導入を改めて強く求める。

 政府、与党は旧姓の通称使用を法制化するための関連法案を、来年の通常国会に提出する方向で検討に入った。夫婦同姓となる「同一戸籍同一氏」の原則は維持した上で旧姓に法的効力を与え、結婚に伴って改姓した人の不便を解消するのが目的という。
 旧姓使用の法制化は、自民党と日本維新の会の連立政権樹立時に合意された。
 保守派の高市早苗首相は選択的夫婦別姓に反対の立場で、就任前に旧姓の通称使用を拡大する独自の法案を提示したことがある。
 法案は戸籍上の同姓は維持しつつ、国や地方公共団体、事業者に対し、旧姓を通称として使用できるために必要な措置を講じるよう求めるものだ。だが、国際的なマネーロンダリング(資金洗浄)対策が厳格化する中、多くの国内外の金融機関が通称での口座開設を認めていない。通称使用の浸透を図っても課題は残る。
 パスポートには旧姓を併記できるが読み取り用のICチップには戸籍名しか記録されず、入国審査などでトラブルが後を絶たない。国際機関では戸籍名での勤務しか認められていないなど、制約は多い。
 経団連は昨年「通称では契約時など海外では理解されにくい」「ビジネス上のリスクとなり得る」として、選択的夫婦別姓の早期実現を提言した。
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 旧姓を使える場面が増えるかもしれないが、求めているのは不便さの解消だけではない。「アイデンティティーの喪失」を生み家制度の価値観を残したままの通称拡大は根本的解決につながらない。

 夫婦別姓は1996年に法制審議会が導入を答申したが、自民党保守派の反対で法案化されてこなかった。国連女性差別撤廃委員会から、早く実現するように日本政府に勧告が4度も出ている。夫婦同姓制度が残るのは日本だけだ。
 結婚後、妻が夫の姓を名乗るケースが95%だという。仕事上、日常生活の不便さなど不利益を被るのは、圧倒的に女性が多い。
 旧姓使用の拡大は、「同じ姓でなければ家族の一体感が失われる」という従来の主張とも矛盾している。
 選択的夫婦別姓制度は、同姓を望む人を拒むものではない。結婚前の姓を望む一人一人の生き方に、選択肢を与える、ただ、それだけのことである。
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 夫婦別姓は先の通常国会で立民、国民民主が法案を提出するなど野党の大半は賛成の立場だ。自民党内にも導入を求める声がある。
 共同通信の5月の世論調査で夫婦別姓導入に「賛成」は71%に上り「反対」27%を大きく上回る。賛成は30代以下の女性で85%と若い層ほど高かった。

 最高裁は2015年と21年、現行の夫婦同姓規定を「合憲」と判断する一方、国会で議論するよう促した。
 別姓導入は時代の要請だ。議論を後戻りさせてはならない。
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