石垣市議会与党会派の議員が、市内の小中高校に通う児童生徒に国歌「君が代」を歌えるかなどを聞く独自のアンケートを実施していたことが明らかになった。
 調査を巡っては9月、市議会が市や市教育委員会に実施を求める決議案を可決していた。
しかし、阿部俊子文部科学相(当時)は君が代の指導に関し、「児童生徒の内心にまで立ち入って強制しようとする趣旨ではない。あくまで教育指導として進めていくことが重要だ」との見解を示した。市教委も実施しないと決めた。
 それにもかかわらず調査を強行したのは、議員による教育現場への不当な圧力に他ならない。
 調査は、11月下旬以降、会派「自由民主実現」と「自由民主石垣」が合同で実施。議員らが知人を通じて協力を呼びかけ、54人の児童生徒から回答を得たという。
 調査は無記名で、(1)国歌を知っているか(2)国歌を歌えるか(3)音楽の授業で国歌を習ったか(4)入学式や卒業式で国歌を歌っているか-の4項目を聞いた。
 議員は「調査権の範囲」としているが、アンケートは知人を通して行ったものに過ぎず、客観的な調査手法としても疑問符が付く。
 1999年の国旗国歌法は日の丸を国旗、君が代を国歌として初めて法的に明確化した。だがそれと同時に、「国民に新たに義務を課すものではない」との首相談話が出ている。
 ましてや君が代に関し、学習指導要領で定めるのは、入学式や卒業式などで斉唱するよう「指導する」ことだ。児童生徒に必ず歌えるよう求めているわけではない。
それなのに子どもたちにアンケートをすること自体、筋が通らない。
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 調査を実施した市議は、学習指導要領に沿った指導ができていないとして市教委に「公にアンケートを実施すべきだ」と求めた。
 中山義隆市長も同調し、「授業で習っていない子がいることは問題」と調査の必要性に言及した。看過できない発言だ。
 学校現場は、教育基本法や学習指導要領に基づき指導し、首長から独立した教育行政が内容を点検している。調査は、学校現場の萎縮を招きかねない不当な介入だ。
 﨑山晃教育長はコメントは控えるとしながらも、調査を実施しないと決めた判断は「間違っていない」と述べ、今後も実施しない考えを示している。当然でまっとうな認識だ。
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 君が代は、天皇の名の下で進められた戦争の記憶と結び付いている。
 今、石垣市を含め、南西諸島では台湾有事を念頭にした自衛隊の配備が急速に進んでいる。一部の政治家からは国民に「戦う覚悟」を求める声が上がり、戦争体験者からは「戦争前夜」と懸念の声が聞こえる。
 君が代の調査を強引に進める姿勢には、「愛国心」を高めたい政党や政治家の思惑が透けて見える。

 自らの主義主張のため、市教委の決定を無視し、恣意(しい)的な調査を実施した。議員の資質に欠けるという他ない。
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