生物多様性が豊かで、世界自然遺産にも登録された沖縄に「国立自然史博物館」を設置しようとの動きが本格化している。
 11日には約50の県内企業や各種団体でつくる「国立沖縄自然史博物館誘致県民会議」が発足した。
来年の政府の「骨太方針」への明記を目標に県内の機運醸成を図りながら、復帰60年となる2032年の開館を目指す。
 自然史とは生物や海、山、土、岩など様々(さまざま)な事物の有様(ありよう)やその歴史をいう。古生物学や動植物学だけではなく、地質学や人類学など多くの学問分野が関係する。
 その研究の粋を集めた自然史博物館は、自然史科学研究、標本の収集・整理・保管、研究成果の展示・教育・普及-の三つの役割を担う。
 欧米やアフリカなどには国を代表する自然史博物館があり、国際研究拠点にもなっている。だが、日本には国立科学博物館(東京)があるものの、自然史に特化した国立博物館はない。東南アジア全体を見ても空白地帯となっている。
 はるか昔、琉球列島は地殻変動で大陸から切り離され、島々に閉じ込められた生物は独自の進化を遂げてきた。「日本の中で飛び抜けて生物多様性が高い」とされる沖縄に自然史博物館を設置する意義は大きい。
 自然史研究が遅れている東南アジア諸国との連携・協力の観点からも、アジアの主要都市に近い沖縄の地理的優位性は高い。高度かつ専門的な研究は、貴重な動植物の保護にも生かせるはずだ。
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 自然史博物館を巡っては、県が13年に「生物多様性おきなわ戦略」で県内設立を検討、17年には「沖縄21世紀ビジョン基本計画」の中間改定で沖縄誘致を明文化した。

 23年に全県議が加盟する議員連盟が結成され、今年4月には県の検討委員会が発足した。年度内に基本方針を策定し、国への働きかけや機運づくりにつなげたい考えだ。
 県内外でシンポジウムや企画展も頻繁に開かれてきた。現在は糸満市で南部展が開催中で、誘致を見据えた動きは徐々に活発化している。
 しかしそれでも、県全体で盛り上がっているとは言い難い。県が旗を振り、県民会議と協力しながら、講演会やフィールドワークなどを重ね、その意義と魅力を強力に発信していく必要がある。
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 すでに県内には美ら海水族館があり、世界でも屈指の海洋生物研究機関として大きな役割と責任を果たしている。
 自然史博物館の設置は、アジア全体の自然史研究においても、日本がリーダーシップを取りながら国際貢献できる重要な拠点となり得る。
 さらに学術的な視点にとどまらず、沖縄が世界に注目され、県の観光経済に与える影響から見ても、その効果と期待は大きい。
 自然史博物館誘致を県の第6次振計後期の柱に据え、実現に向けて力を注いでほしい。
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