【平安名純代・米国特約記者】基地を囲うフェンスは、地図に引かれた線であると同時に、主権の所在を示す線でもある。だがその線は、夜の繁華街ではふいに揺らぐ。
11月23日。沖縄市のゲート通りを単独で巡回していた米軍憲兵隊(MP)が、身分証の提示を拒んだ私服の民間人男性を路上に投げ倒し、抑え込んで手錠をかけた。その様子を捉えた映像がSNSで拡散されると、波紋が広がった。
在日米軍は対応の誤りを認め、単独巡回の停止と調査、再教育の実施を表明した。映像拡散から間を置かず示された対応は、問題の大きさを改めて示した。
拘束された男性は元海兵隊大尉で、現在は民間人。代理人の弁護士は声明で、民間人に対する拘束は権限の逸脱と米軍を批判した。
事件は米軍関連メディアでも報じられ、軍人コミュニティーを中心に議論を呼んだ。米国では警察権力の行使と人権を巡る問題が繰り返し問われている。その文脈の中で、民間人に対する武力的な権限行使がどこまで許されるのかという問いが沖縄での出来事を通じて浮かび上がった。
主権の境界をどこに引くかという問題は、沖縄だけの課題ではない。
2012年7月、韓国・烏山(オ・サン)基地周辺で、基地外を巡回していた米軍憲兵が韓国人の民間人を拘束する事案が起きた。
韓国政府は、米韓地位協定の改定には踏み込まず、運用の改善を求めた。合同委員会での協議を経て、13年から米軍憲兵が基地外で単独で権限を行使することは事実上認められなくなった。条文ではなく、運用を見直すことで主権の線を引き直したといえる。
沖縄では、基地に近い夜の繁華街で、住民の目に触れる形での職務質問や身分確認が行われてきた。基地の外側が、あたかも準基地のように扱われているのではないかとの違和感が地域に沈殿しつつある。
主権の線を何で引くか。
米軍の基地外単独パトロールを容認し続ければ、誤認拘束や人権侵害のリスクは避けられない。
県政は、米軍の基地外における単独パトロールの停止と地位協定の運用改善、リバティー制度の厳格化を両政府に改めて強く求めるべきだろう。
司法の統制が及びにくい場所で行使される力に、どこまで「例外」を許すのか。主権の線は、今も街の片隅で問われ続けている。

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